しじま

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4/13/2023, 7:09:30 AM

 だいたい、東京―神戸間位の距離。

会おうと思えば、何時でも会える距離。

たったの400キロメートル。

 地上ならば。

眼下を流れる青い惑星をぼんやりと眺めた。

たったの400キロメートル、そう言い聞かせて微小重力のなか、今日も任務を完遂した。

 あの子は元気にしているだろうか、ちゃんとご飯を食べているだろうか、イジメられていないだろうか。

補修テープの貼られた円形の小窓越しに、青を撫でる。

 今は夜だろう、あの子の住む煌煌とした日本列島を待ち望んだ。

テーマ「遠くの空へ」

4/11/2023, 1:16:33 PM

いつも美味しいごはんをありがとう。

部屋の、おトイレの掃除をしてくれて、ありがとう。

ケガをしたとき、お腹が痛くなったとき、手当てをしてくれて、撫でてくれて、ありがとう。

キライな苦いお薬も、痛い注射も、ありがとう。

つまんないとき、かまって遊んでくれて、ありがとう。

美味しいおやつ、ありがとう、ねぇもっとちょうだい。

寝るときも一緒、ちょっと暑いけど、ありがとう。

あなたと同じ言葉は喋れないけど。

伝えたいんだ。

いっぱい、いっぱい、ありがとう。

これからも、ずっと、ずっと、ありがとう。


テーマ「言葉にできない」

4/10/2023, 5:20:05 PM

 たいして美味しい訳でもないのだが、ツクシが好きだ。

毎年でもないが春、川辺に生えているのを見つけたら一握りほどになるまで摘み、家に持ち帰って食らう。

生では食べない、念の為に言う。

 佃煮にして酒の肴にするのだ。

醤油とミリンと形容し難いツクシの味、食感。

 遠い記憶の祖父等を真似て日向燗でいく。

そうすると、ツクシのほろ苦い味と共に、じんわりと染み入るのだ。

 ああ、また春が来たよ。

テーマ「春爛漫」

4/10/2023, 4:58:06 AM

 ぐっと一歩を踏み出すたび、ぎしりと全身が軋んだ。
それでも構わずにターフを、蹄を叩きつけるように力一杯蹴る。

 前へ、前へ、ただそれだけを望む。

背に乗る彼が手綱を引くが、完全に無視して、ミシミシと嫌な音をたて始めた足でカーブに挑んだ。
高速で過ぎていく白いラチが途切れ、最後の坂が見えた。

 アレを登ったら、終わりだ。

大きく息を吐いて、口の中の少し不快な金属を噛む、彼はまだ手綱を引いていた。
 大歓声に応えるように坂を駆け上がる、後ろからはまだ誰も来ない。
痛みはもうわからなくなっていた。

 ゴール板まで、もう少し。

 感覚を頼りにキラキラと光る緑の芝の上を走り抜けた。

割れんばかりの大歓声に、誇らしい気分になる。
 足の痛みがぶり返してきたが、もう少しだけこの高揚感を味わっていたかった。

テーマ「誰よりも、ずっと」

4/9/2023, 9:00:29 AM

 買い物からの帰り、商店街から一本入った道。
人気のない静かな道、買い物袋の両端を二人で持って歩く。
他愛もない話をして、笑いあって。

この時間がいつまでも続けばいいのに。

異口同音、また笑い声があがった。

坂の上の家まで、二人でヒイヒイ言いながら坂を登る。さすがに買いすぎた。
 やっとのことで坂の上、ちょっと曲がった腰を伸ばすと、年寄り臭いと笑われる。

そうだ、年寄りを敬えよ、と買い物袋を押し付けて小走りで家路を行く。

 まだまだ夏は遠く、ひんやりと冷たい風が吹いて、くしゃみが一つ出ていった。

テーマ「これからも、ずっと」

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