『降り止まない雨』
出会ったのは、人気のない薄暗い路地裏。
最初に見たのは君の泣き顔。
まるで、晴れた日の雨のようだった。
初めて会ったはずなのに、なんだか放っておけなかったのは、君が、お伽噺の主人公に見えたから。
自分の人生は、お伽噺にはほど遠いから、少し憧れがあったんだと思う。
少しの間、会話をしてたら君は徐々に泣き止んだ。
改めて、綺麗な顔だと思った。
その次の日も、君はあそこで泣いていた。
理由は話そうとはしてくれない。
そんなミステリアスで儚い君が、会ったのはたった2回目なのに、とても気に入っていた。
また次の日も、そのまた次の日も、君はずっとそこで泣いていた。
自分は何度もそこへ駆け寄って、君に寄り添った。
君に会い続けて半年ぐらいだった頃、君は突然そこから消えた。
一瞬、戸惑ったけど泣く理由は無くなったってことでいいんだよね。
最近になって、街で君を見つけた。
家に帰る時にたまたま見つけた。
隣には、腕を組んで歩くほど仲よさげな人がいて、驚きの余り足を止めてしまった。
そういえば、今日は雨が降るっていっていた。
早く家に帰ろう。
前がはっきり見えてる内に。
『あの頃の私へ』
時の流れは実に早い。
毎日、酒を飲んでは気絶したように寝ての繰り返し。
最愛の人に逃げられたこの私には、何も残ってなんていなかった。
ただ其処にあるのは、空になった瓶だけ。
ふと、恋人がいなくなった頃の事を思い出した。
事の始まりなんて、大抵は些細な話。
好きとか嫌いとかの詰め合わせ。
その日は、私の愛した人の誕生日で、恋人は酷く酔っ払っていた。
恋人は普段、言葉足らずな事がよくあったが、酒が好きだったようで、飲んでいた時はテンションが高かった。
酒を進められたが、私はやんわり断った。
すると唐突に、恋人が私に問うてきた。
恋人との間では、定番の質問だった。
愛してる?
そんな単純な問に、私はどもった。
その少しの間の後、興奮した闘牛の様に怒り狂った恋人が部屋中の物を壊して出ていってしまった。
あの頃の私へ
お酒って、美味しいですね。
今になってわかった事ですけど。
夢の中に居るかのように自由に動けないと言うのが少し不快ですが、フワフワする感じが良い。
あの時、無理にでも飲んでいれば良かったんです。
そしたら、理性も何も取っ払って本音が言えたかも知れないのに。
私はハッキリと恋人を愛していました。
最愛の人だったんです。
あの別れの時までは、ですけどね。
『桜散る』
中学生最後の4月、桜が咲きほこる木の下で告白した僕の言葉を、君は泣きながら頷いてくれた。
僕は必死になって君の涙を拭ってたのを覚えてるよ。
君が大好きな桜の木の下での告白、少し卑怯かなって考えたけど、君には僕の事、忘れてほしくなかったんだ。
よく小さい頃から一緒だった僕達は、毎日遊んだり、喧嘩したりしてたよね。
あっという間の十数年、君と過ごしてると、時が過ぎるのを早く感じた。
嫌な思い出もあったけど
君と出会えて良かったなって思った事のほうが多かった
白いカーテンの窓の外で桜の花がヒラヒラ舞っている。
君が大好きな桜の木。
とても綺麗だよ。見なくていいの?
ふと、そう思って君の方を見ると、君の目から桜の花弁みたいに大きな涙がこぼれてる。
君の涙をいつもみたいに、拭おうと思ったけど、
僕の手は、もう動くことは無かった。
『夢見る心』
人は誰しも、夢を持ってるって、いつかの先生が言っていた。
僕には、その”夢を持ってる”というものがよく分からなかった。
毎回聞かれるたびに、有りもしない幻想を並べて、その場しのぎをしていた。
将来の夢なんて
バカバカしいと思った。
僕は、絵を描くのが好きだけど、それを職にしようとは思えない。
唯一の娯楽が無くなってしまう気がしたから。
それに、この世界に僕より絵の上手い人なんて、探してみたら一分もしない内に見つかるよ。
色々なものに難癖つけて、結局何もして無いまんま時というものは進んでく。
人生の分岐点では
何回も全部無視して来たんだなって思った。
今、考えつく未来図は到底幸せな物とは思えなかった。
それでも幸せに成りたいって思ってる自分の心は
夢見てるってことでは?
『届かぬ思い』
今から、十年前になるのかな。
僕はいつも、君に悪口を言っていたね。
髪型が変だって言って笑ったり 服が似合ってないって貶したりしてた。
全部嘘だったんだよ。 照れ隠しだったんだ。
君への熱い感情を認めたくなくて、難癖つけたかっただけなんだよ。
今日は同窓会。 君に会えるかとても心配だった。
結局、来てくれた君は相変わらず優しいんだね。
今日の髪と服、良いね。 キマってる。
さっき聴いたよ、今年結婚するんでしょ。
君のパートナーが嬉しそうに教えてくれたよ。
とても良い人だよね。
君の事、とっても好きだって言ってたよ。
え、結局何が言いたいかって?……。
結婚 おめでとう