「最悪だ」
しくじった。数々の後悔と過去の記憶が頭をよぎる。
もっと綿密な計画を立てればよかった。
あのとき見逃さなければよかった。
あのとき、こいつに戦い方なんて教えなければ。いや、そもそも出会わなければ。
最後の最後に邪魔されるなんて。
あぁ、でも。こいつと朝方まで馬鹿騒ぎしながら語り合
っていた時間は、いつもより呼吸が楽だった。こんなに
楽ならはじめから話しかけていればよかった、なんて。
一時の友人の辛そうな顔が目に入る。
今回も失敗だな。いや、大失敗か。今度はお互い最悪な結末にならないといいな。
目を開ける。隣に親友がいる。
話しかける。
「…。」
聞こえてないみたい。
「誰にも言ってないんだけど、実は私、空飛べるんだよ」
「…。」
「ねぇ!なんか言ってよ!」
見向きもしてくれない。
自分の手を見た。向こう側が見える。
「…。やっぱりダメなんだ。」
視線を親友に戻す。
彼女は静かに、涙を流していた。
大人になった。
結構いいマンションの一室を借りられるほどの
収入も入るようになった。一人暮らしのくせして
部屋がたくさんあるマンションを選んでしまった。
きっと、あの日々の思い出を詰め込めるようにだろう。
溢れ出してしまわないように。
でも、なんでだろう。空白が目立って仕方がない。
あぁ、そうか。あのままで良かったたんだ。
狭い部屋で、溢れ出るくらいの思い出を抱えていたほうが
幸せだったんだ。
もう一度、あの部屋に戻ることができたなら。
一人ぼっちじゃ、この空白を埋められない。
天を仰ぐ。澄んだ空、薫風が吹き、揺れる植木。
視線を落とす。溢れ出る赤、地面に転がっている物体。
恋をしてたんだ。君に。愛してた。何度も想いを伝えた。でも君は一度だって答えてくれたことはなかった。
別にそれでもよかった。君が自由に生きてくれていれば、僕はそれだけで幸せだった。
そう、僕が愛して、恋をしてたのは自由な君だ。
他人のものになってしまった君じゃない。
君が自由じゃないと意味がない。だから。
僕が愛した君に戻してあげる。
正直者が馬鹿をみる世界だ。
子どもの頃から何も変わらない。
それをわかっていても嘘がつけないのはきっと彼のせい。
私の生き方を肯定してくれた。
こんな汚れた世界でも私を受け入れてくれる人間がいるとは思わなかった。
こんなに暗く先も見えない世界で、私に光を与えてくれた存在に私は救われていたんだろう。
自分の生き方を、彼が守り抜いてくれた私を、私は諦めない。不穏分子は必ず消されてしまうこの場所で、長く生きられないとしても。