いっそ貴方が他の誰かのものだったならば、
ただ奪えばいいだけの簡単なことだった。
けれど貴方は私の血の繋がらない義姉であり、
一番近くて、一番遠い、絶対に手に入らぬ存在。
他の男のためにまとうミッドナイトブルーのドレス。
白い肌と柔らかな栗色の髪が美しさを際立たせる。
貴方は何も知らずに私のエスコートから離れ、
違う男の腕に手を添えて、私にその背中を向けた。
満月が浮かぶ真夜中の空の下。
貴方に伸ばした私の手はただ虚しく空を切る。
【ミッドナイト】
気まぐれで、気分屋で、唐突な、
君の態度にいつも振り回される。
時折来るメールとか、唐突な真夜中の電話。
私の言葉は煙に巻くくせに、私の返答は逃さない。
そっと触れた指先にほのかな熱が宿って、
背中越しの体温に安心と不安が押し寄せる。
年上だからと余裕を見せていてもね、
心の中はそんなことでいっぱいになる。
打てないメールの文字を眺めて、
言葉にならない声を飲み込んで、
気づけば今日も夜が更けていく…。
【安心と不安】
もう君の顔さえ思い出せない。
あんなに愛した君の顔が逆光に遮られる。
遠い遥かな記憶の中で、それでも僕は君を愛す。
理由も、切欠も、なにもかもが失せているのに、
君を愛した事実と、今も君を想う気持ちだけは、
今もなお消えずに僕の中に残っている。
それは未練なのか、執着なのか…。
始まりも思い出せない。終わりも分からない。
ただひとつわかっているのは、
おそらく僕は死ぬまで君を忘れない。
現実よりも夢に逃げるように、
たったひとつの珠玉の記憶を抱き、
誰も知らないうろの中に閉じこもる。
僕の名を呼ぶ優しい声に耳を塞いで。
【逆光】
もしもタイムマシーンが現実にあったのなら、
君はどこに行きたい? 過去? 未来?
僕はね…君と出会う前に戻りたい。
君と出会う前に戻って、もう一度やり直したい。
君を悲しませたこと。君を傷つけたこと。
君を突き放したこと。君の手を離したこと。
後悔する全てのことをやり直して、
もう一度きちんと君を愛したい。
そうすれば、君の隣で笑うのは僕だったはず…。
【タイムマシーン】
君と過ごす今日の夜は、特別な夜。
交わす言葉も少なく、触れる手もわずかで、
静かなひと時をともに過ごす。…ただそれだけ。
ただそれだけが、この夜を特別なものに変える。
【特別な夜】