君は僕に「寂しさに慣れないで」と言う。
寂しさに慣れる人間などいない、とも言った。
けれどね…僕のこの胸の穴はもうずっとずっと遠い昔に空いてしまったもので、いくら君にきつく抱きしめてもらっても決して埋まることはないんだ。
この穴は―――あの人にしか埋められない。
そしてあの人は…求めたところでここには来ない。
君を愛せたのならばどんなによかっただろう。寂しさなんて知らずに、幸せにいられたかもしれない。それでも僕にあの人を愛さないという選択肢はなかった。
僕を形づくったのはあの人だから。
僕のすべてはあの人にもらったものだから。
君を好きだと言いながら、あの人のいない寂しさを君で埋めている。…酷い人間だね、僕は。
【寂しさ】
今日の天気の話とか、朝のニュースの話とか。ゲームの話、アニメの話、漫画の話、エトセトラ…。
ありとあらゆる話題をかき集めて、とりとめもない話をひたすら繰り返した君との初デートの日。
緊張のしすぎで自分が話したことさえ忘れていくのに、君の一喜一笑だけは目に焼き付いて残っている。
君と過ごす時間が増えるたびにだんだん話すことも増えていって、すれ違うことも喧嘩することも多くなっていった。一言も話さない日だってあったね。
それでも僕はあの日のことを思い出しては、君との会話にいっぱいいっぱいだった初心に回帰する。
今日のご飯の話とか、仕事の上司の愚痴話とか。
映画の話、旅行の話、有名スイーツにショッピング。
君が好きそうな話題をかき集めて、いつかのようにとりとめもない話をいっぱいしよう。
そうして君が笑ってくれたなら、
僕は君に―――特別な話がしたいんだ。
【とりとめもない話】
風邪をひいたら人恋しいと言うけれど、
私はいつでもあなたを恋しく思ってる。
恋は病のようなものだというから、
あながち間違ってはいないのかもね。
【風邪】
吹きすさぶ吹雪の音も聞こえない一面の銀世界。
ひとり佇む君の姿は袖のひとつも乱さずに、
ただ静かに君に見惚れた私を真っ直ぐに見た。
凍えそうな寒さも、凍てつきそうな冷たさも、
異常なほどの肌の白さに、輝きさえ見せる白髪に、
幻とも思える君は冬を誘(いざな)う女将軍だった。
私は毎年冬を待つ。雪を待つ。
―――…そして、君を待つ。
ただ一度の邂逅で私を魅せた君を求めるように。
身体が凍り、体温が下がり、感覚がなくなり、
目の前が霞み、指先ひとつ動かぬ身になろうとも、
再び君に会えるのならば極寒の地さえ楽園だろう。
【雪を待つ】
冬の曇天にふわりと舞うのは沫雪。
影凍る冷気に吐き出す息は白く、
露出したわずかな肌が冷たかった。
だけど不思議と心は暖かくて、
それはきっと隣に君がいるから。
仄青いイルミネーションと、
街を淡く照らす光のコントラスト。
「ね、綺麗でしょ」と振り返る君の、
きらきら輝く目の方が綺麗だと言いかけて、
あまりの恥ずかしい台詞を飲み込んだ。
苦手な人混みに、寒さを耐えて、
その見返りが君の笑顔ならば悪くない。
でもやっぱり寒いのは寒いから、
早く家に帰って君を抱きしめたい。
…そう言ったら顔を真っ赤にして怒られた。
【イルミネーション】