求めたのはほんの一握りの愛情。
飾った言葉も高価なブランド品も、なにもいらない。
高級外車も気取ったレストランも、なにもいらない。
ただあなたからのたったひと言が欲しかった。
望むものは与えてくれた。願ったことは叶えてくれた。―――そのたったひと言だけを除いて…。
試すように求め続けて、要らないがらくただけが増えた部屋のなか、埋め尽くされた僕がいる。
砂漠のオアシスの中でひと雫の水を求めるように、
シュノーケルの海中から水面の空気を求めるように。
僕を「好きだ」と言ってくれる、
その言葉だけを待っている。
【愛情】
あなたから受ける視線で火照る私は微熱を患う。
息をするのも切なく、胸の鼓動は高鳴り、心があなたで満たされて、もうあなた以外が目に見えない。
昨日まで何も感じなかったあなたのひと言が、私の感情を揺るがす魔法の言葉にも聞こえてしまう。
あなたの顔が見られなくて、視線を逸らすたびにまたあなたからの視線が私に刺さる。そしてそれがさらに私の熱を上げていく。
その視線の意味を知らないほど私は無知じゃない。
けれどその意味を理解するほど私はそれを知らない。
だからもう少し待っていて。
ただ熱に浮かされただけじゃ怖いから。
あなたにそんな視線を向けられて、火照った私の答えなんてとうに決まっているようなものだけれど。
あなたの視線を受け止めて、あなたの言葉に微笑い返して、真っすぐあなたを見つめられるその時まで。
もう少しだけ、待っていて…。
【微熱】
君と逢うときはいつも夜の時間だった。
君と過ごす夜はいくつもあったけれど、別れ際は別々で、後腐れのないあやふやな関係が丁度よかった。
だけど偶然街で見かけた昼の君は、太陽の下で笑っていて、似合いすぎたその光景に僕はただ立ち尽くすことしかできない。きらきらとした表情で眩しく笑う君を、僕は真っすぐに見ることができなかったんだ。
そのとき胸から溢れた感情をどう表せばいいのだろうか。かつて持っていた純粋な心が再び芽を出すかのように、ただ君だけを見つめていたい。僕の腕の中で眠る君を見ながら、そんな願いが頭をよぎる。
このまま君と朝を迎えたらどんな顔をするだろう。
想像するだけで怖くて不安になるけれど、いつかの君の姿が眼裏に映って僕の背中をゆるく押す。
次に目を開けた瞬間から君と僕の関係は変わる。
君の答えがどんなものかはわからないけれど、それでも一縷の望みをかけて僕はゆっくりと目を閉じた。
【太陽の下で】
君が裾を掴んで伸びたセーター。
ずいぶん昔のことだけれど、記憶は今も鮮明に蘇る。
泣きながら君が引っ張るから、
その柔らかい黒髪を優しく撫でた。
笑いながら君が引っ張るから、
その低い目線に合わせて微笑んだ。
怒りながら君が引っ張るから、
その可愛い拳を甘んじて受けた。
君の成長は早く、気づけば綺麗な女性に変わった。
もう私のセーターを引っ張ることはなくなり、君は君の愛する人と歩んでいくことを選んだ。
「…私ね、叔父さんが好きだっんだ」
純白のウェディングドレスをまとったまま、そう耳打ちした君は幸せそうな笑顔でそう言って、私のもとから離れていった。
君は覚えているかな。君が伸ばしたあのセーターは、君が私にプレゼントしてくれたものだったんだよ。
捨てるにはどうにも惜しくて、クローゼットの奥深くに今もある。
いつか、君と君の愛する人にその話をしよう。
そのとき君はいったいどんな顔をするんだろうね。
【セーター】
落ちていく 堕ちていく
気まぐれに覗いた 君のなか
天上を仰ぐような 深淵を覗くような
水の中に沈むように 空気を飲み込むみたいに
ただひたすらに 君に溺れてしまう
君の姿に 君の声に 君の生き様に
流れる髪に 白い素肌に 揺らめく瞳に
落ちていく 堕ちていく
見つめたその目が もう離せない
水面に映る睡蓮が 光を浴びて花開く
静かな小波が音をたて 龍頭の玉が煌めくとき
私を見ない 君に魅せられる
【落ちていく】
↓ Ver違い
落ちていく 堕ちていく
気まぐれに覗いた 君のなか
天上を仰ぐような 深淵を覗くような
水の中に沈むように 空気を飲み込むみたいに
ただひたすらに 君に溺れてしまう
君の過去に 君の現在(いま)に 君の未来に
燃える意志に 冷えた表情(かお)に 隠した素顔に
落ちていく 堕ちていく
見つめたその目が もう離せない
彼岸に乱れる徒花が 風に揺られて花散らす
幾重の刃が刺す丘に 欠けた鉄の飛び散るとき
私を見ない 君に魅せられる