月が凪ぐ夜

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君が裾を掴んで伸びたセーター。
ずいぶん昔のことだけれど、記憶は今も鮮明に蘇る。

泣きながら君が引っ張るから、
 その柔らかい黒髪を優しく撫でた。
笑いながら君が引っ張るから、
 その低い目線に合わせて微笑んだ。
怒りながら君が引っ張るから、
 その可愛い拳を甘んじて受けた。

君の成長は早く、気づけば綺麗な女性に変わった。
もう私のセーターを引っ張ることはなくなり、君は君の愛する人と歩んでいくことを選んだ。

「…私ね、叔父さんが好きだっんだ」

純白のウェディングドレスをまとったまま、そう耳打ちした君は幸せそうな笑顔でそう言って、私のもとから離れていった。

君は覚えているかな。君が伸ばしたあのセーターは、君が私にプレゼントしてくれたものだったんだよ。
捨てるにはどうにも惜しくて、クローゼットの奥深くに今もある。

いつか、君と君の愛する人にその話をしよう。
そのとき君はいったいどんな顔をするんだろうね。


【セーター】

11/24/2023, 11:30:33 AM