月が凪ぐ夜

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11/17/2023, 11:11:54 AM

冬になったら、冷たい風が吹きますね。
冬になったら、白い雪がひらりと舞うでしょう。

冬になったら、あなたの好きな椿が咲きます。
冬になったら、空気も澄んで月が綺麗でしょう。

冬になったら、ホットワインが美味しいでしょう。
冬になったら、暖炉の前でたくさん話がしたいです。

冬になったら、クリスマスがすぐに来ますね。
冬になったら、年越しの計画を立てないとですね。

冬になったら、あなたの誕生日がもうすぐだから、密かに誕生日パーティの準備をしないとですね。


―――…冬になったら、
あなたがいなくなってもう5年の月日が経つのですね。

冬になったら、僕は毎年あなたのお墓を訪ねます。


【冬になったら】

11/16/2023, 11:18:26 AM

『時がくればはなればなれ 互いの道 帰るさだめ』
             【月衣(東京エスムジカ)】

この歌の歌詞を見たとき、私はこれがなにかの真実のように思えた。

君と私は別々の人間でそれぞれ違う道を歩いている。今、君が私の隣で歩いているのは、互いに進む道が隣り合わせで、その目的も同じだから。
けれどひとたびその目指す場所が違えたとき、きっと君も私もあっという間に背を向け合うのだろう。

そんな日は永遠に来ないでほしいと思う。けれどいつかはそんな日が来るのだろうとも思ってしまう。
だから私は今君とともにいるこの瞬間をなによりも大事にしたい。

そしてもしもその日が来たのなら、私は笑顔で君を見送り、その背中を見えなくなるまで見届けて、私も君に背を向けて歩き出そう。


【はなればなれ】

11/16/2023, 2:27:41 AM

あなたと私では生きる時間の流れが違う。あなたがひとつ年を取る度に、私は4倍以上の年月を経る。
あなたの時間はゆっくりなのに、私の時間は光の早さで過ぎていく。

幼い私を抱いていたあなたは、その温かな手のぬくもりのままで、老いた私をその腕に包み込む。

けれどね…捨てられた子猫だった私を、あなたが拾って救ってくれたあの瞬間を、私は一度も忘れたことはない。あなたの腕の中で潰えるこの時でさえ私はまだあの時の子猫のようにあなたの指をぺろりと舐めた。

あなたは私の頭を撫で、頬をさすり、喉をくすぐる。
ああ、あなたに出会えたことが、私の生まれた意味なのかもしれない…。

あなたにとってはほんの数年でも、私にとってはすべての生を捧げた…あなたを愛した生涯でした。


【子猫】

11/14/2023, 12:01:48 PM

秋風に たなびく雲の絶え間より
  もれいづる月の 影のさやけさ
            左京大夫顕輔

『秋風によって雲がたなびき、その絶え間から漏れ出る月の光の、なんと明るく澄んだものでしょう。』


私が好きな秋の季節に、あなたが目を閉じて佇む。

季節の好みに澄んだ空気というものがあるけれど、私はこの秋に吹く風が好きだった。
春の優しさも、夏の激しさも、冬の厳しさとも違う。ただ静かに、ありのままに吹く秋の風。

頬を掠めて、髪を揺らし、身体にふわりと纏わりつく。
それはあなたを愛しく思う私の気持ちにも似ていて。

月の光に照らされたあなたの髪にそっと触れる。
あなたはぴくりと身体を震わせて、隣の私を振り返った。その顔には驚きとともに、滅多にない私からの行動に少しだけ嬉しさを頬に染めている。

「秋も悪くないね」

あなたはそう言って、逃げた私の指を捕まえた。
たったそれだけの理由であなたは秋が好きだと言い始めたね。

ねえ、今もあなたは秋が好きかしら?


【秋風】

11/13/2023, 12:00:55 PM

舞台は終幕を迎え、みんなが望んだ大団円。
拍手喝采、観客はスタンディングオベーション。

茨の魔女は悪い魔女。姫を呪って眠らせた。
けれど姫は王子に救われて、二人は幸せになりました。


『誰も知らない茨の魔女の真実は、愛する人に裏切られ、翼を奪われた哀れな妖精。
しかし、彼女の心の奥にあった深い愛情が、実は姫を守っていたことをきっと誰も知らないのでしょう。』


そんなこともつゆ知らず、ハッピーエンドを喜ぶみなさま。表面だけの張りぼての物語はいかがでしたか?
今のはちょっとした裏話、気にせずともいいのです。

さあ、幕が降りたら帰りましょう。
所詮すべては知られぬ話。誰も知らない真実など、浮かれた人は興味なく、その心には響かないものです。

それではみなさま、ごきげんよう。
次なる舞台でまた会いましょう。


【また会いましょう】

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