秋風に たなびく雲の絶え間より
もれいづる月の 影のさやけさ
左京大夫顕輔
『秋風によって雲がたなびき、その絶え間から漏れ出る月の光の、なんと明るく澄んだものでしょう。』
私が好きな秋の季節に、あなたが目を閉じて佇む。
季節の好みに澄んだ空気というものがあるけれど、私はこの秋に吹く風が好きだった。
春の優しさも、夏の激しさも、冬の厳しさとも違う。ただ静かに、ありのままに吹く秋の風。
頬を掠めて、髪を揺らし、身体にふわりと纏わりつく。
それはあなたを愛しく思う私の気持ちにも似ていて。
月の光に照らされたあなたの髪にそっと触れる。
あなたはぴくりと身体を震わせて、隣の私を振り返った。その顔には驚きとともに、滅多にない私からの行動に少しだけ嬉しさを頬に染めている。
「秋も悪くないね」
あなたはそう言って、逃げた私の指を捕まえた。
たったそれだけの理由であなたは秋が好きだと言い始めたね。
ねえ、今もあなたは秋が好きかしら?
【秋風】
11/14/2023, 12:01:48 PM