確かに俺はものを知らないよ? 君の方がずっとずっとずーーーぅと色んなことを知ってるし、優しく教えてくれるのもうれしーし…。
でも俺だって教えてあげられることいっぱいあるんだから、だから…困ってる時は俺にも頼って欲しいんだ。いつもと逆さまだなって笑って良いから…ねぇ。
「…なんでおまえが泣くんだよ」
君の背中に張り付いて、顔なんか見せてないのに君は俺が泣いてることすぐに気づいて、そういうところも好きだって思う。
好きだって…思う。
「逆さま…だなんて思わない。君の強さと優しさは、ものを知ってる知らないなんてそんなことを超越してんだよ。俺はいつだって、そんなおまえに救われてるんだ…」
そう優しく言って君は、肩に縋った俺の手をポンポンと叩いた。
君の言っていることは難しくてわからないところもあったけど、だけど君も俺のこと頼りにしてくれてるんだってことは
ちゃんとわかった。ううん、俺だってもちろん、ちゃんとわかってた。
俺たちはただそうやって、何も言わずに互いに体温を感じ続けたんだ……。
▼逆さま
君が誰かと仲良くしてると、可愛いな楽しそうだな良かったねというひかりの気持ちと、俺にそんな笑顔見せてたか? その話俺知らないんだけど。はっきり言ってムカつく…っていう闇の気持ちが入れ替わり立ち替わりする。
まったく大人気ないしカッコ悪いしみっともない。でもそれが人間ってもんじゃないか?そんな光の闇の狭間で人は、恋を楽しむものなんじゃねぇのかなぁ。
「何言ってんの。さむっ」
酔った勢いで俺の哲学をご披露したら、仲間が心底いやーな顔を浮かべた。
「なんだよ。普通そういうもんだろ。恋っていうのはさぁ」
「普通はね?でも相手があれよ、あいつよ?まぁねぇ……でもおまえがなんと思っててもさ、そのどす黒い嫉妬を抱えていても」
「どすとまでは思ってねぇわ」
「あいつは全部ひかりに変えちゃうんだよ。そういう奴じゃん?ピュアピュアピュアっ子、どこまでも光属性、そんでおまえのこと大好きじゃん?」
「…おまえまさか、あいつのこと」
闇側の俺がそう言うと、仲間はゲラゲラ笑ってそーそー、俺も好き好き!闇堕ちしろー!とふざけたこと言いやがる。
光側の俺はそれを見て、こいつも良い奴なんだよなと思いながら、そんな話を君としたいななどと思ったのだった。
▼光と闇の狭間で
「いっーーぽっ!」
俺の後ろをちょっと遅れて歩いていた君が突然ジャンプして俺の横に並んだ。
「なに?」
「一歩追いついた。これで並んだよね、君の誕生日まで」
ああ、確かに。
俺は笑って君の手を握る。真昼間。人通りもそこそこある。君はギョッとした顔を浮かべて俺を見上げた。
「ちょっとっ、」
「なに? 良いじゃん、歩こ。ずっとこうして。先まで――生まれてくれてありがとう」
次に俺の誕生日が来てまた君を追い越しても、俺たちはただまっすぐに共に隣を歩いていく。
君は一瞬泣きそうに顔をくしゃりとして、それから笑った。
俺の手を強く握り返してぶんぶん振りながら、もう大好きなんだから!と叫んだのだった。
▼距離
「今日は寒いねー!」
そう君は言いつつ、軽快に豆を挽いてコーヒーを淹れている。まぁ君は年がら年中コーヒーは淹れてるからそれをもって冬のはじまりとは言えない。
俺は君のコーヒーを待たずにベランダに出た。うっひょー、今日は一際風が冷たいぜ。
なんでわざわざ外出たの? と君がマグカップを2つ持って追いかけてくる。
「寒いけど天気いいからさ――コーヒーさんきゅ」
俺にマグを渡して君は、自分のマグからコーヒーを一口ごくり。ホント雲ひとつないいいお天気だねーと空を見上げた。
俺はそんな君をチラ見。もこもこ部屋着から指先だけ出す萌え袖スタイルに両手で包み込んだあったかいマグカップ。
いやーまさに冬がはじまりましたなー。
▼冬のはじまり
移動の為にワゴン車の後ろに乗ってると君が隣に乗ってきた。後ろに座った仲間となにか盛り上がってるみたいで、隣に座ったってのにずっと後ろ振り返ったままめっちゃ喋ってる。
いや別にね。そんなのなんとも思ってないよ。俺よりも話盛り上がるもん、趣味とか俺とは全然合わないし。隣に座ったのだってたまたま俺の隣と後ろがひとつ空いてたからで、ここ俺が座ってなかったら2人で座ったんじゃん。
いやもう、全然そんなの。
いつものことだし。
仕事にあいじょーは持ち込まないし!
「…なんで突然膝枕されてんの?」
俺がばたんと横倒れに倒れて君の膝に頭乗せてかたーく目を閉じて寝たふりしたら、話を一旦中断した仲間が呆れたように言うのが聞こえる。
君は知らねーって笑いながら、仲間からは見えないように俺の頭を撫でた。
仕事に愛情は持ち込まない。
でもね。
たまにはね。
▼愛情