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9/24/2023, 2:17:09 PM

来たる記念日にふと立ち止まり、振り返る。
愛しいもの、楽しいもの、辛いもの、後悔、その全てがごちゃ混ぜになって迫ってくる。
そのすべては俺を形作っているモノ。思い出を全部固めたら、俺という形になるんだ。

だけど、愛は。
手を伸ばしても掴めなくて、後ろを振り向いても前を向いても何も見えない。だって自分だけじゃどうにもならないことだから。
ほら、君も振り返って俺に手を伸ばしてる。俺はそれを必死に掴み包み込む。
形の無いそれを、俺は必死に抱き締める。
まるで君自身を抱き締めるかのように。



▼形の無いもの




9/23/2023, 3:41:36 PM

夜中の公演を君と手を繋いで歩いている。君は酔ってるからあっちにふらふら、こっちにふらふら。
時折手を離して駆け出したと思えば、また戻ってきて俺の手を握る。
まるで俺たちの今までみたいだなと、そんな詩的なことを考えた自分がバカらしく、俺はひとり苦笑する。

「あ」

君はまた俺の手を離して駆け出した。暗闇に浮かんでいるのは、子供の遊戯。ジャングルジム。
身軽な君はひょいひょいと登って、俺に手を伸ばす。

「ねぇ!」
「えぇ?俺にものぼれってか。やだよ、危ねぇよ。酔ってるし」
「大丈夫だよ!俺がついてる」

そう言って君は、その大きな瞳をさらに広げて、晴れやかに笑う。
ふっ、と俺は苦笑する。まるで今までの俺たちの関係みたいだね。
これは詩的ではなく、単なる事実。
俺にはいつも君がついていて、もちろん逆もまた然り。

子供の頃、果てなく遠く思えたジャングルジムのてっぺんはほんの数メールの高さしかなくて、俺は酔ってご陽気な君の隣に腰掛け、考えることを放棄してただ君と夜空を見上げた。



▼ジャングルジム


9/22/2023, 11:47:34 AM

ふわふわと、横になる。寝てるのか寝てないのか自分でもわかんない。お酒ちょっと飲んじゃった。だってお医者さんもちょっとだけなら良いよって言ってたし。

「寝ちゃったの? すっかり酒弱くなったよね。昔は顔、海賊みたいに真っ赤にしてたのに」
「赤くなるのって血管を分解された酒の毒素が暴れ回ってる状態で良くないらしいぜ。だから元々弱ぇーんだよ、こいつ」

ハイ出た雑学王〜。仲間が君のことを(俺のことも?)からかってる声。それに応える君の声。
そして君が俺の髪をそっと撫でる手。

ふわふわと、幸せな夢うつつの中で俺は君の声を聞く。

「それちゃんと持ち帰ってよ。あんたのなんだからね」
「はぁ? 何で俺が。めんどくせーなー」

とか言いつつ君はこっそり俺の額を撫で続けてて俺はそれが嬉しくて、あとね、仲間の言った〝あんたのなんだからね〟に君が言い返さなかったこともね。



▼声が聞こえる


9/21/2023, 11:10:33 AM

「秋なんて、もう来ない気がする」
「今年あちーもんな」

今年の夏は暑かった。そして長かった。いや長い。現在進行形。

君はうんざりとした顔で夜の空の下、ベランダから空を眺めた。
んなにあちーならエアコンの効いた室内にいればいいものを、この恋人は暑いのはそんなに嫌いではないことを俺は知っている。

「汗がね、嫌いなんよ」
「知ってる」
「暑いのはね、好き。こうやって外でぼんやりするのも」
「俺も」

互いにニヤッと笑って手を繋ぐ。ベランダはセメント作りだから外からは見えない。まぁここは高層マンションだから柵だとしても見えないけどな。

「あっちーよ」

君はニヤニヤと笑う。でも手を離す気配はなくて、俺の手をにぎにぎ。

「秋がーいつか来るまでさー、こうしてよっか」
「秋になったらやめんのか」
「やめるわけねーじゃん。その次は冬まで、その次は春までこのまんまよ。そしたら次は、もう、夏!」

なるほどね。

「あー早く秋が来ねぇかなぁー!」

君はそう言って、ケラケラ笑う。
どの季節も、きっと俺は君に恋をする。



▼秋恋


9/20/2023, 11:53:31 AM

一緒に住んでるわけじゃないから、会えない時はなかなか会えない。互いに忙しい仕事に追われる日々。仕事は好きだ、君を好きなのとは別のベクトルで。きっと君もそうだろう、って君が誰よりも仕事を大事にしていることは俺が1番わかっている。

そう、それはわかっているんだけど、なんだろな会いたくてたまらない夜もたまにはあるんだよ。



時計を見る。夜中の2時半。もう寝てるよな、当たり前。君は誰より体調管理にうるさい。それを知ってて俺の指は君のアドレスをプッシュする。呼び出し音。画面が開く。真っ暗な背景の中、目をしょぼしょぼさせてる君。

『…なに。なにかあった?』

君は、なんだよこんな時間に、なんて言わないで、まず真っ先に俺のことを気遣う。
そんな君が。

「いや…会いたい、なって」

そんな君が好きで。
誰より、大事で。
大事に、したくて。

なのに俺はこんな時間に電話をかける。

『…あさって、会えるじゃん』
「知ってる。あと3日もある」

うん…。

君は眠そうに、だけど確実にくすりと笑って、そして言った。

『俺も、会いたいよ』
「うん。会いたいな」
『うん、 会いたい…』

俺にとって君が誰より大事で、君にとって俺は誰よりも大事。

それを確認したい夜。



▼大事にしたい…




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