「今月忙しいなぁ…」
カレンダーを睨みつけ、思わずひとりごと。
こことここは時間あるけど、君の方は時間ない。LINEに送られてくる予定表をカレンダの方にリンク付けてるから君の予定もバッチリだ!
「…て、こうやって落ち込むこともあるわけです」
お互い仕事が忙しいのは良いこと、本当に良いこと。それはわかってる。そしてそれはそれ、これはこれ、ということも。
「早く会いたいなぁ…」
カレンダーをうっかり指でなぞったら来月の予定になっちゃった。来月も実はびっしりなんですよ。
君の予定と僕の予定がいい感じに絡み合い、網目の隙間をなんとか探そう。そうして日々は過ぎていく幸福。
▼カレンダー
僕らは今まで何を見てきて、何をしてきたんだろう。
そしてこの道はどこへ繋がっているんだろう。
僕はこの先も君の隣を歩いて行けるのだろうか。君の歌を聞くことができるんだろうか。
君を…失わずにいられるんだろうか。
心臓がバクバクする。失われるかもしれない未来を考えるだけで息が苦しい。
それは強い喪失感。
そんな難しい言葉も君が教えてくれた。
そんな、君を。
「大丈夫だよ」
君はそう言っていつもみたいに笑う。
僕の手を握るその手もまた、震えているのに。
大丈夫だよ。
僕は頷く。
頷く。
▼喪失感
ソファでうたた寝するのが好き。3人がけのソファにデーンと横たわって独り占めして、みんなの声が聞こえる時。
「まーた、ひとりで使ってる。ホントわがままなんだから。あんたが甘やかしすぎなんだよ」
「甘えてんの可愛いじゃん。知ってるか? 実はあいつ全部聞こえてるんだぜ」
「あの人のこと可愛いなんて言うのはあんただけだからね!」
そんなふうに文句言われて、ニヤニヤ笑いながら答える君の声が遠くに聞こえる。
文句言ってる奴も苦笑混じりで本気で怒ってる声じゃない。起きてるの、そうだよねバレてるよね。
でもそうするだけの理由があって…
「もうほら時間だよ。起こしてきてよ」
「なーんで俺が」
と言いつつ近づいてくる君。そして耳元で囁いてくれる。
「ほら起きろよ――ていうか起きてんだろ。お、き、ろ」
甘いボイスが耳に触れ、体がふるりと震える。
世界で一つだけの君の声。
僕がこの世で1番好きなもの。
▼世界に一つだけ
うふふ。君は笑って俺の周りをくるくる。
酔ってるなぁ。可愛いなぁ。俺は君の腰を掴んでさらにくるっと一回転。
「なーんだよお、よってんのかぁ〜? 」
「酔ってるのはそっちだろ。今日楽しかった?」
俺がそう言うと君は顔をくしゃっとさせて大声で、
「楽しかったー! みーんな一緒で、いーっぱいのんだー!」
「そーか、そーか。俺も楽しかった!」
「うん、しってる。だからおどろっ」
深夜の道の真ん中で、君はくるくる。俺もくるくる。ケラケラ笑って、たまに抱きしめて。
こんなダンスしたことないね。いつもとは違うダンスだ、まるで舞踏会で踊るように。
君はお姫さま? 俺は王子さま?
「あはは、俺だって王子さま〜っ! これは〜、王子さまのダンスなの〜!」
「はは、そうだな! 俺たちは王子さま。いつだって、お互いにとってな!」
王子さまたちは手に手をとって踊り続ける。そうしてふたりは深夜の道の向こうに消えて行きました、とさ。
▼踊るように
勝手知ったる君のうち。昨日は部屋でそこそこ飲んでふたりしてバッタンキュー。
されど朝日と共に起きる習慣のある俺は、君をベッドに残して勝手に起きて勝手に飯作って、ひとり珈琲を淹れる。
まるでこの家の住人みたいに。
俺はこの時間が結構好きだ。君の部屋。君のリビング。君のキッチン。まるで君に囲まれてるみたい。しかも寝室には君がいる!
君の気配を…、ひとりをたっぷり堪能して、さてそれではそろそろ君を起こしましょうか。
仕事に行く時間まであと小一時間。シャワーを浴びてゆっくり朝ごはんを食べるだけの時間はあるでしょう。
君はいつもお寝坊だけど、俺が告げる時の声には従ってくれるよね。
「ほら、おきろー!」
▼時を告げる