SF
青空の下で
一般人枠の当選確率は一億分の一とも言われた。
それに奇跡的に当選しても、厳しい訓練の連続。生命の危険がある為、手加減は一切なく、また希望者はごまんといるので、脱落者は容赦なく落とされた。
そして……ようやく、前世紀の遺物と呼ばれる巨大なエレベーターに乗る。
身体に掛かる強烈なGのなか、籠は着実に上へと昇って行く。
やがて籠が止まる。無人探査機の調査データの結果、大気の成分は基準値に納まっているが、念の為、防護服を着込み、皆ぞろぞろと扉に向かう。
扉が開く。まず、目に映ったのは、どこまでも広がる青い空。
「……ここが地上……」
地下都市では絶対に見られない、遠くに霞む地平線。
私達は子供のように、焼けた土の上を駆け出した。
お題「子供のように」
300字小説
放課後の七不思議
私の小学校は三階のトイレの鏡と廊下の鏡が合わせ鏡になっていて、五時ちょうどにそれを覗くと自分の将来の姿が見える、という噂があった。
キッズ携帯の画面が午後五時を告げる。覗くと高校生くらいの私。隣の市の高校の制服を着て、頭一つ分、背の高い男の子と歩いていた。男の子の顔が次第にハッキリしてくる。
「げっ……。なんでアイツなのよ……」
階段を降りて児童玄関に向かう。夕日の赤い光の中、下駄箱近くにいたのは、さっきの鏡に映っていた幼馴染。帰る私の後を黙って追う。
「何でついてくるのよ」
「暗くなってきたからさ。女の子一人じゃ危ないって母ちゃんが……」
「……ふーん」
私は顔が熱くなるのを感じながら、そっぽを向いた。
お題「放課後」
300字小説
『元気ですか?』
休日の昼下がり。秋風にカーテンが揺れる。
実家に置いてきた柴犬のコロはカーテンが好きだった。私が喜ぶからとカーテンの後ろに隠れては顔を出して『いないないばあ』を繰り返ししていた。
カーテンの後ろの窓にその丸まった尻尾が映る。あきらかに何かが後ろにいるかのように揺れ
『わふん』
スマホの着信音に目を瞬く。ディスプレイには『母』の文字。
『もしもし? コロがアンタが元気が無い時にするように何度もカーテンで『いないいないばあ』しているけど……大丈夫?』
心配げな声と後ろの『わふん』という鳴き声に小さく笑う。
「うん。秋のせいかな。ちょっとだけセンチメンタルになっていたみたい。もう大丈夫ってコロに言って。ありがとう」
お題「カーテン」
ファンタジー
300字小説
女神の涙
王都の神殿。その最奥には、この世界を創造したという女神の像がある。
司教と巫女が立つ中、王は祭壇に祈りを捧げ、女神の神託を望んだ。
つうと女神の両目から涙が落ちる。
「精霊の森を切り拓いてはならないと女神様は仰っておられます」
「精霊の森は天然の砦。人の手によるどんな砦よりも隣国に対する強固な壁になるでしょう、と」
神託を読み解く司教と巫女の言葉に王は頷いて去っていった。
「上手くいったな」
司教の声に像の後ろから、水の妖精の乙女が現れる。
「これで貴女達の森は無事でしょう」
巫女がニヤリと笑う。
『ありがとう』
「何、我々は事実を示唆したまでのこと」
「人と精霊の争いが未然に防げるなら女神様も笑って許して下さるわ」
お題「涙の理由」
「Trick or Treat!」を待ちわびて
秋風が冷たくなり、夜がだんだん長くなると、ボクの一番好きな晩秋の祭りがやってくる。
「小麦粉にバター、砂糖に……」
台所の籠には収穫して寝かせているカボチャと栗と芋。棚にはお酒に漬け込んだドライフルーツ。
「卵の手配はしたし、後は……」
窓の外、浮かぶ細い月に
『Trick or Treat! ココロオドルネッ』
店の棚に飾ったジャック・オ・ランタンがケタケタ笑う。
『Trick or Treat! お菓子をちょうだい!』
オバケのボクが一夜だけ、人に紛れて自慢のお菓子をふるまうことの出来る夜。
今月のカレンダーの残りの日数を数える。ボクは鼻歌を歌いながら、仮装のローブと帽子にコウモリの飾りをつけた。
お題「ココロオドル」