SF(すこしふしぎ)
300字小説
トンネルの向う側
幼い頃、私のお気に入りの遊び場は、近所の小さな公園のジャングルジムだった。
赤や青、黄色に塗られた鉄の棒の中に短いトンネルがあって、夕刻まで遊んで帰った後、母に
『トンネルをくぐったら、草原で、ライオンがいたの!』
『シロクマさんが泳いでた!』
『大きなお船とペンギンさんがいた!』
得意げに話していたという。
「そういう空想をして遊んでいたってことよね」
狭い場所を通る、日頃とは少し違う体験に、そんな景色を当てはめていたのだろうか。
「お母さ~ん」
実家に里帰り中、あのジャングルジムで遊んだ息子が駆けてくる。
「このジャングルジムすごいよ! トンネルをくぐったら向こうから宇宙人が『こんにちは』って!」
「……えっ?」
お題「ジャングルジム」
オカルトSF
300字小説
遭難信号
ザッ……。流れた音に通信機に飛びつく。
『……こちら救助艇……貴船に向けて……航行中……到着まで……後……』
「何時になったら到着するんだよ!」
マイクに叫ぶ。この宇宙船が遭難して、どのくらい経っただろう。遭難信号に応答が入るものの、救助艇は一向に着かない。
「近くにいるんだろ! 頼む! 早く来てくれ!」
すぐに生命が、ということは無いが精神が限界に近い。俺はマイクを握りしめた。
数日後。俺は別の救助艇に救助された。
「この宙域で以前、二重遭難を起こした救助艇があるのです」
以来、遭難信号に不可思議な応答が聞こえることがあるという。
確かに声だけだが、正気を保つことが出来た。俺は窓の外の宇宙空間に手を合わせた。
お題「声が聞こえる」
いまひとたびの
センチメンタルな秋の仮初の恋だと周りから言われた。
都会の名門大学に通う、お嬢様の旅先のアバンチュールだと。
こんな田舎住まいの男なんか本気にするわけがない。それでも、交わしたLINEに、一抹の希望を乗せて、来月のイブのイルミネーションイベントのペア入場券を送る。
ピロン……。
返事が返る。
『嬉しい! また会えるのを楽しみにしてるわ』
本気ですか? ……と躊躇いつつも問う僕に可愛いスタンプと共に、また返事が返る。
『本気よ。だって秋は実りの季節だもの』
お題「秋恋」
オカルト
一期一会
今年は本当に暑かった。殺人的な猛暑で、夏の間、毎年賑わう私の家も昼間はもちろん、夜も誰も来てくれなかった。
九月も半ばになって、やっと朝晩、涼しくなって、皆、来てくれるようになったの。
……だから。
「きゃあぁぁぁっ!! 女の幽霊がぁ!!」
「マジか!? 本当の心霊スポットだったのかよ!!」
寂しかったもの。おうちまで憑いていって、しっかり祟るわ。
折角の出会い、大事にしたい。
お題「大事にしたい」
何時も何時までも
秋風に君の長い髪なびく。美術館デートの帰り道。黄色く染まった銀杏並木を柔らかな夕陽の光を浴びて歩く姿は、さっき見た彫刻の女神より美しく愛らしく、俺は何度もこの瞬間を『時間よ止まれ』と願わずにはいられなかった。
秋風にすっかり白くなった髪が揺れる。縁側でのんびりと湯呑みを傾ける。赤く染まった庭の紅葉に目を細める姿は、どんな絵画よりも美しく穏やかで、俺は隣に座りながら、何度もこの瞬間を『時間よ止まれ』と願わずにはいられなかった。
「あなた、何をじっと見てるの」
「……いや、何年経っても、何時でも、君は綺麗だなぁ……と見惚れてた」
「……ふふ……ありがとう」
お題「時間よ止まれ」