特盛りごはん

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7/21/2023, 9:37:52 PM

 人の欲が尽きることはなく。ひとつ手に入れば次が、次が手に入ればまたその次が、と終わりがない。
 金が欲しい。愛が欲しい。あの人が欲しい。家族が欲しい。美味しいもの、楽しいもの、自分だけのもの。欲するものは人それぞれ色々とあるけれど、自分が真に欲しているものは一体何なのだろう。

『という訳で手土産の希望ある?』

 長年議論されていそうな人の欲について語ったと思えば行き着いたのは友人宅への手土産ときた。しかも本人に、しかも当日に聞いてしまう辺りがあの子らしい。
 しかし今は渡りに船。いやピンチに友人。

「牛乳」
『牛乳』
「シチュー作り始めたのに牛乳がなかった」
『そりゃ大変だ』

 ポトフへの転身を考えコンソメスープ投入直前だった鍋の中身は無事にシチューへと進化できそうだ。



/今一番欲しいもの

7/20/2023, 1:14:46 PM

「ね、どんな色になってる?」

 ブルーハワイのかき氷を片手にベッと舌を見せた私に彼は目を瞬かせた。大して仲良くもない女子にいきなり馴れ馴れしくされたのだから当然の反応。
 それでも優しい彼は戸惑いながらも律儀に答えてくれるのだ。

「えーっと……青い、かな?」
「うん。あおいです」

 頷いた私に分かりやすく疑問符を飛ばす彼に、忘れないでね、と小さく念を押した。



/私の名前

7/19/2023, 12:39:53 PM

 真っ直ぐな彼の瞳と目が合った。少し小さめだけど穏やかな色をたたえた黒目が素敵。シャープな印象だから眼鏡も似合いそうだな、と勝手に想像して一人でにやけてしまう。
 何を見ているのだろう。そう考えて違和感。だって私は彼と目が合っている。──そう、目が、合っているのだ。それはつまり。
 状況を理解した途端に顔に熱が集まるのがわかった。色を変えたであろう頬を隠すように両手を当てるがもう遅い。

私の視線の先には愉しそうに笑う彼がいて。
彼の視線の先には真っ赤な顔をした私がいる。



/視線の先には

7/18/2023, 2:07:19 PM

 ご飯よ、とお母さんが私達を呼んだ。兄と妹と一緒に元気に返事をしてお母さんの待つテーブルへと駆け寄る。いつも私が一番乗りだ。
 けれどお母さんは私の横を通り過ぎて兄と妹の前にお皿を置いた。良い匂いだけが私に届く。

「ハンバーグだ!」
「やった!」

 嬉しそうな二人の声に微笑んだお母さんがやっと私を見た。ことりと目の前に置かれた皿は二人とは違うもの。いつもそうだ。いつもいつも私だけ二人やお母さん、お父さんとも違う。
 私もそれがいい、とお母さんの服を引っ張った。目の前に置かれた皿を押しやり兄や妹の周りを駆け回って一緒がいいと主張する。

「どうしたどうした」

 遅れてやって来たお父さんが走り回る私を見て目を丸くした。
 そうだ、優しいお父さんなら自分の分を分けてくれるかもしれない。そう考えてお父さんの席に飛び乗った所で慌てた様子のお母さんに抱き上げられた。

「犬にタマネギは駄目なんだってばー!」



/私だけ

7/17/2023, 12:18:37 PM

 初恋の人がいた。
 ふわふわ柔らかな髪を揺らしながらぱちりと大きな目を潤ませて、同い年の子達よりも少し小さな体で私の後ろを懸命について来ていた可愛いあの子。突然やって来て突然ぱったりと姿を見せなくなった上に何故かその地域の学校では会えなかったから一緒に遊んだ回数は数える程だったけれど。私の手を握って安心したように微笑む顔を思い出すと、今でも胸が切なくキュンとするのだ。

「ほんとに可愛かったんだよー」
「……"ユウくん"?」
「そう。ユウくん」

 過去に思いを馳せて頬を赤らめる女に、へぇ、と男は素っ気なく返事をした。愛想の良い男の無愛想な反応に驚いたように顔を上げた女は身を乗り出してその顔を覗き込む。

「妬いてる?」

 そう言って悪戯っぽく笑った女の顔に一瞥を返して、男は手元のマグカップに口を付けた。

「ね、妬いてるよね?ね?」
「はいはい妬いてる妬いてる」
「ふふ。マサルも可愛いとこあるじゃん」

 ご機嫌に席に座り直した女は気がつかない。
 男が隠れたマグカップの奥で笑っていたことも、昔と変わらないその悪戯な笑い方を懐かしんでいたことも、再びその手に触れられた男の喜びも。
 今は全て、"優くん"だけが知っていた。



/遠い日の記憶

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