特盛りごはん

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 初恋の人がいた。
 ふわふわ柔らかな髪を揺らしながらぱちりと大きな目を潤ませて、同い年の子達よりも少し小さな体で私の後ろを懸命について来ていた可愛いあの子。突然やって来て突然ぱったりと姿を見せなくなった上に何故かその地域の学校では会えなかったから一緒に遊んだ回数は数える程だったけれど。私の手を握って安心したように微笑む顔を思い出すと、今でも胸が切なくキュンとするのだ。

「ほんとに可愛かったんだよー」
「……"ユウくん"?」
「そう。ユウくん」

 過去に思いを馳せて頬を赤らめる女に、へぇ、と男は素っ気なく返事をした。愛想の良い男の無愛想な反応に驚いたように顔を上げた女は身を乗り出してその顔を覗き込む。

「妬いてる?」

 そう言って悪戯っぽく笑った女の顔に一瞥を返して、男は手元のマグカップに口を付けた。

「ね、妬いてるよね?ね?」
「はいはい妬いてる妬いてる」
「ふふ。マサルも可愛いとこあるじゃん」

 ご機嫌に席に座り直した女は気がつかない。
 男が隠れたマグカップの奥で笑っていたことも、昔と変わらないその悪戯な笑い方を懐かしんでいたことも、再びその手に触れられた男の喜びも。
 今は全て、"優くん"だけが知っていた。



/遠い日の記憶

7/17/2023, 12:18:37 PM