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11/8/2024, 10:19:15 AM

『意味がないこと』

「月島!?」
どこまでもよく通る声が俺の名を大声で呼ぶ。
ただでさえ声大きいんだから気を付けてくださいよ、と言おうとして、その声が約100年ぶり、つまり前世ぶりだと言うことに気づいた。
「鯉登さん!?」
世界の喜び全部詰め込みました!みたいな顔であなたが笑う。
なんだ、これ。夢か。夢だな。そうだ。
勝手に結論付けた俺を尻目に、あなたが大股で近づいてきてそのまま背中に手を回す。
「会いたかった…。やっと会えた…。探しとったんだぞ」
離さないぞとばかりに自身の方に俺を引き寄せるその腕から伝わる体温は、おおよそ夢とは思えないほど生の温かさを持っていた。
「おひさし、ぶりです」
何を言えばいいかなんて経験がないからわからなくて、たどたどしく言葉を紡ぐ。
うん、と可愛らしく返事をするその声が濡れていることに気づいてしまった。
だけど気づかなかったふりをして前世と身長差は変わらなかったその背中に手を回す。
「探しててくれたんですか」
「当たり前じゃろ」
「俺も、探してました。会いたかったです」
整った顔をぐちょぐちょにしながら、それでも俺にとっては一番好きな顔をして見せる。
「どのくらい探してくれてたんですか」
「生まれたときからだ」
「なんでそんな…」
思った以上の長さに言葉をなくす。見た感じ二十歳過ぎくらいだろうか。え、長。四半世紀じゃん。
「だって、わいが来世でも探してくださいって言ったんじゃろ」
前世のその言葉を覚えていてくれたのか。
あんな、死に際の口約束を。
そんな約束だけで、いるかもわからない俺を生まれたときからずっと。
心臓が胸郭で暴れまわって、あなたへの愛情を知らせる。
100年経ってもいまだにあなたに掴まれたままの心を愛しく思いながら、あなたの隣でしか出ない笑顔で笑って見せる。
あなたのその言葉だけで、笑顔だけで、意味がないことなんてなかったんだと思い知らされた。

ゴールデンカムイより鯉月です。現パロです。
鯉登さん目線が書けない。もはや七不思議です。残り6つどこよ。
最初鯉登さんにするか鯉登少尉にするか迷ったんですよね。諸事情で鯉登さんになりました。
なんやかんや言ってますけどたぶん月島さんも生まれたときから鯉登さん探してます。
ちなみに月島さんが前世で言ったのが「探してください」だったのは「探してくれますか」よりももっと近しい頼みごとじゃなくて願いとかを言えるような存在に鯉登さんがなっててほしい(語彙力どこ)というオタクの願いです。

11/7/2024, 10:08:40 AM

『あなたとわたし』

性別は決めてないので好きに解釈してください!

あなたが好きなの。どうしても、あなたじゃないとだめなの。ごめんね、好きになって。
震えた声で言葉を紡ぐ私の肩に、あなたがそっと触れる。
やけに熱く感じるのは、あなたが温かいのか、わたしが冷たいのか。
いつも春みたいだな、なんて思っていた声が少しの緊張を孕んで降ってきた。
「わたしも、君が好きだよ」
世界の音が止まった。心臓が、どくりと音を鳴らして生を知らせる。
「……え」
「わたしも一緒。君じゃないとだめみたい」
信じられないけど、信じるしかなかった。これが夢だったらどうしよう、なんて思えないほどにあなたの瞳には本気が宿っている。
好きだな、なんて今まで幾度となく思ったことをあらためて実感した。
わたしとあなたの心が、初めて温度を持って触れあう。
あなたとわたしの願いがひとつに重なったから、ずっと触れたいと願っていたその心に足跡をつけた。

11/6/2024, 10:00:42 AM

『柔らかい雨』

あなたがそばにいてくれるだけで、一人じゃ耐えられなかった冷たい雨でさえ、光のような柔らかい雨に姿を変えた。

あなたの涙を覆い隠すような、そんな柔らかい雨になりたいと願った。

11/5/2024, 10:00:37 AM

『一筋の光』

BL要素あります。お気をつけください。

何も見えない底無し沼のような俺の世界で、やけに眩しい顔であなたが笑って、手を差し伸べるから、その手にすがり付きたくなった。
掴んでいたはずのものさえなくなってしまったのに、生きる意味なんてなくなったのに、無意味にも生に執着する俺を、その愚かさや醜ささえあなたが受け止めてくれたから。
この身も心も、あなたに捧げると決めたんだ。
あなたが美しいと思える世界であることを、ただひたすらに希っていた。
あなたが美しいと思う世界を、誰よりも大切なあなたの隣で見たいと思った。
――ねぇ、鯉登さん。俺の生きる意味なんて、あなたが笑ってくれるだけで満たされるんですよ。
そんなこと知らなくてもいいから、ずっと幸せでいてください。
俺を、あなたの隣で幸せにしてください。
俺にとって、一筋の光のようなあなたを見失わないように、その手を力の限り握りしめた。

自分が濡れることさえ厭わずに濡れている人に傘を差し出して、できるだけ多くの人に優しさを分け与えようとするような、誰の一筋の光にもなりえるような男だったから、そんなお前に傘を差し出すのは私であってほしいと思った。

今日は鯉月両方の目線から書いてみました(鯉登さん短いですすみません)。
鯉登さんは太陽みたいな光、月島さんは月みたいな光だと思ってます。

11/4/2024, 10:46:22 AM

『哀愁を誘う』

あなたには哀愁を誘うような、そんな悲しそうな顔をしてほしくなくて、無防備に晒された白い頬に手を伸ばした。

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