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『意味がないこと』

「月島!?」
どこまでもよく通る声が俺の名を大声で呼ぶ。
ただでさえ声大きいんだから気を付けてくださいよ、と言おうとして、その声が約100年ぶり、つまり前世ぶりだと言うことに気づいた。
「鯉登さん!?」
世界の喜び全部詰め込みました!みたいな顔であなたが笑う。
なんだ、これ。夢か。夢だな。そうだ。
勝手に結論付けた俺を尻目に、あなたが大股で近づいてきてそのまま背中に手を回す。
「会いたかった…。やっと会えた…。探しとったんだぞ」
離さないぞとばかりに自身の方に俺を引き寄せるその腕から伝わる体温は、おおよそ夢とは思えないほど生の温かさを持っていた。
「おひさし、ぶりです」
何を言えばいいかなんて経験がないからわからなくて、たどたどしく言葉を紡ぐ。
うん、と可愛らしく返事をするその声が濡れていることに気づいてしまった。
だけど気づかなかったふりをして前世と身長差は変わらなかったその背中に手を回す。
「探しててくれたんですか」
「当たり前じゃろ」
「俺も、探してました。会いたかったです」
整った顔をぐちょぐちょにしながら、それでも俺にとっては一番好きな顔をして見せる。
「どのくらい探してくれてたんですか」
「生まれたときからだ」
「なんでそんな…」
思った以上の長さに言葉をなくす。見た感じ二十歳過ぎくらいだろうか。え、長。四半世紀じゃん。
「だって、わいが来世でも探してくださいって言ったんじゃろ」
前世のその言葉を覚えていてくれたのか。
あんな、死に際の口約束を。
そんな約束だけで、いるかもわからない俺を生まれたときからずっと。
心臓が胸郭で暴れまわって、あなたへの愛情を知らせる。
100年経ってもいまだにあなたに掴まれたままの心を愛しく思いながら、あなたの隣でしか出ない笑顔で笑って見せる。
あなたのその言葉だけで、笑顔だけで、意味がないことなんてなかったんだと思い知らされた。

ゴールデンカムイより鯉月です。現パロです。
鯉登さん目線が書けない。もはや七不思議です。残り6つどこよ。
最初鯉登さんにするか鯉登少尉にするか迷ったんですよね。諸事情で鯉登さんになりました。
なんやかんや言ってますけどたぶん月島さんも生まれたときから鯉登さん探してます。
ちなみに月島さんが前世で言ったのが「探してください」だったのは「探してくれますか」よりももっと近しい頼みごとじゃなくて願いとかを言えるような存在に鯉登さんがなっててほしい(語彙力どこ)というオタクの願いです。

11/8/2024, 10:19:15 AM