『もう一つの物語』
今までの過去を捨てて、あなたと2人で手を取り合って、何もない世界で、2人のもう一つの物語を始めよう。
この物語だって、もう一つの物語だって、きっとあなたさえいれば、それは私にとってかけがえのない宝物なんだろう。
あなたが選んだ選択肢が最良だって、頭では理解していた。
だけど、この手の中に何も残らなかったという事実がやけに胸を痛ませる。
あなたの笑顔が、あなたの笑い声が、最後に見せた辛さを見せないように必死に隠す表情が、どうしても忘れられない。
どうか、もう一つの物語があるのなら、あなたが私の隣で笑ってくれますように。
『暗がりの中で』
今までの人生は、終わりが見えない、始まりすらも見失った暗闇のようだった。
何もかもを失って、でも、失ったことに気づけなくて。ただひたすらに焦りと寂しさを抱いていた。
そんな日々だったから、突然差し込んだ光にだって、卑屈になって手を伸ばすことができなかった。
でもどんどん光が大きくなって、近づいてきて、いつの間にか俺の方からその光を求めるようになって。ずっと拒み続けたその光に手を伸ばしたとき、あなたは世界の美しいものを全て詰め込んだみたいな表情で笑った。
そんなあなたが、どうしようもなく愛おしかったんだ。
永遠に続くような暗がりの中で見つけたたったひとつの光のようなあなたを失くさないように、俺があなたにとっての光になれるように、あなたの手を握りしめた。
『紅茶の香り』
紅茶の香りがふわりと鼻腔を刺激して、あなたの帰りを知らせた。
あなたが帰ってきたらいつも紅茶を飲むものだから、私の中であなたと紅茶の香りは結びついている。
ただそれだけのことなのに、私しか知らないあなたの影が宿ったような気がして、やけに胸を高鳴らせた。
『愛言葉』
いってきます、いってらっしゃい。
ただいま、おかえり。
全然特別なことじゃなくて、あなたと私の間で取り決めたその愛言葉を言える日々が、私の幸せになった。
『友達』
失恋したあなたが私の隣で静かに涙を流す。
ひく、ひくという声と、私が背中を撫でる音だけがやけに響いた。
少し落ち着いたあなたが、まだ濡れた声色でありがとう、と笑った。
「やっぱり、一番の親友だよ」
なんて笑うあなたは、私の気持ちには気づいていないのだろう。
まだ、それでいいのだ。
あなたが完全に立ち直って、新しい恋を見つめられるようになるその時まで、私はあなたの友達でいるから。
だから、どうか、私が気持ちを打ち明けたときには真剣に向き合ってほしい。