『行かないで』
行かないで、なんてすがりつくことができたのなら、今も私の隣はあなただったのだろうか。
あの時にあなたが言ったのは行かないで、なんて可愛らしいものじゃなくて、行くな、というなんとも上からの言葉だったけど、その震える手と縋りつくような瞳は確かに行かないで、という色を宿していた。
振り払おうと思えばいくらでもそうすることができたのにしなかった理由を、あの時の俺は知らなかったけど、今ならきっとわかる。
俺だって、きっと、あなたのことが好きだったんだ。
結果的に俺はあなたを選んで、あの人を捨てたことになったが、その選択を後悔したことはない。
後悔する暇などないほどに、あなたに愛された自覚があった。あなたを愛した自覚があった。
人生の全てを捧げられるほどに、俺の今までをたった一言でひっくり返してしまったあなたが、大切で、愛おしくて、何よりも美しかったんだ。
『どこまでも続く青い空』
血と肉に埋もれていた俺が、どこまでも続く青い空を見れるようになったのは他でもないあなたのおかげだったから、そんなあなたには、ただひたすらに幸せな未来が来ることを願っている。
どこまでも続く青い空だって、どこまでも輝く綺麗な星だって、どこまでも繋がる人の絆だって、全部あなたがいなかったら知ることすら出来なかっただろう。感謝と信頼と情愛と、何もかもをひっくるめて穏やかに眠るその顔を見つめた。
ゴールデンカムイ、杉リパにもはまっただって!?公式ですしね、しょうがないです。
前作で♡500達成しました。ありがとうございます。これからものんびり好きなように書いていきます。
『衣替え』
衣替えをして少し早めに出したパーカーのポケットに、あなたが寒いだろ、と私の手を握って一緒に突っ込む。
仄かに赤く染まったあなたの耳と、じんわり伝わるあなたの体温だけで私の体温は急上昇だけど、ありがとう、なんて呟いてみせた。
『声が枯れるまで』
声が枯れるまであなたの名を呼ぶから、どうかあなたも答えてはくれないだろうか。
声が枯れるまでお前の名を呼ぶ。
ただひたすらに、返事が欲しかった。
お前の笑顔が見たかった。
そんな言葉で、気持ちを封じ込めないで欲しかった。
お前にも、声が枯れるまでその感情をぶちまけて欲しかった。
そうすることのできる相手が、私であればいいと思っていた。
『始まりはいつも』
今日もBLです。よろしくお願いします。
始まりはいつも、あなたの言葉からだった。
私の右腕になってくれ、だとか、わいんことを好いちょ、だとか、今世でもわいがいいんだ、だとか。
俺たちの関係はあなたの言葉で繋がっていると言っても過言ではないだろう。
だからこそ、今世での結婚という繋がりだけは、俺の言葉で始めたいと思った。
「だから鯉登さん、俺と結婚してくれませんか」
柄にもなく赤い薔薇の花束を差し出しながらそう言った俺に、あなたは目尻が裂けるんじゃないかというほどに瞳を見開いた。と思えばその瞳からぼたぼたと涙を溢し始める。
「ど、どうしたんですか?」
「わいがそげんこっを言うから…!」
涙と鼻水で端正な顔をぐちょぐちょにしながら俺の肩に顔を押し付けるから、どんどん服が湿り始める。
「ちょっ、鯉登さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃなか!」
「えぇ…」
ぐすんぐすんと鼻を啜る音が聞こえる。
いくらかそうしていたものか、結構長い時間が経ったような気がするが、鯉登さんが落ち着いたので、もう一度、あなたの瞳を真っ直ぐに見つめて同じ質問を繰り返した。
「俺と結婚してくれますか?」
「もちろんじゃ!幸せにすっ!」
花束を抱えたあなたが、世界の美しいものを全て詰め込んだみたいな表情で笑う。
ただそれだけのことが、どうにも愛おしくて、あなたを抱き締めた。
2日連続の鯉月です。今回エセ鹿児島弁多いんですけど大目に見ていただけると助かります。
当社比鯉登さんが泣き虫です。そんな鯉登さんも愛しい月島さんいとしげら。
月島さん目線しか書いてないのでそろそろ鯉登さん目線も書きたい今日この頃です。