『行かないで』
行かないで、なんてすがりつくことができたのなら、今も私の隣はあなただったのだろうか。
あの時にあなたが言ったのは行かないで、なんて可愛らしいものじゃなくて、行くな、というなんとも上からの言葉だったけど、その震える手と縋りつくような瞳は確かに行かないで、という色を宿していた。
振り払おうと思えばいくらでもそうすることができたのにしなかった理由を、あの時の俺は知らなかったけど、今ならきっとわかる。
俺だって、きっと、あなたのことが好きだったんだ。
結果的に俺はあなたを選んで、あの人を捨てたことになったが、その選択を後悔したことはない。
後悔する暇などないほどに、あなたに愛された自覚があった。あなたを愛した自覚があった。
人生の全てを捧げられるほどに、俺の今までをたった一言でひっくり返してしまったあなたが、大切で、愛おしくて、何よりも美しかったんだ。
10/24/2024, 10:01:14 AM