今日は彼と夫婦になって3年目だ。こんなに続くとは思わなかったなと考えながら祝うためのケーキやごちそうを準備していた。全ての準備が終わり、彼を待つだけだ。瞬間、玄関で音がした。
「ただいまー」
「おかえり。もう準備してあるわよ。」
「そっか。ちょっと待っててくれ。」
彼が着替えた後ワインを用意しグラスを合わせる。
「今日の記念日に乾杯。」
「乾杯。」
食事をしながら今まであったことを語り合った。語り合う程たくさんのことがあったなと思う。
「───でさあの時すごく怒ってたな。」
「それはあなたが悪いのよ。」
「すみませんでした。」
「ねえ。」
「うん?」
今日だからこそ言わなければならないことを彼に告げる。とても恥ずかしいけど。顔から火が出そうになる。
「いつもありがとう。あなたがいたから私は辛い時も苦しい時も乗り越えられた。」
「こ、こちらこそありがとう。」
見ると彼の顔は真っ赤に染まっていた。暫く見つめ合った後お互い笑い合った。今まで喧嘩もしてすれ違うこともあった。でもこうして幸せでいられるのは彼のおかげだ。これからもずっとこの日々が続きますようにと私は
願った。
『あなたがいたから』
今日は雨か。折り畳み傘を鞄の中に入れておいて正解
だった。そう思いながら教室を出る。
廊下では傘を持って来ていないという誰かの困った声や
持ってきておいて良かったという安堵の声が聞こえて
来る。玄関で靴を履き替えているとあの子がため息を
ついて空を見上げていた。
「なあ、もしかして傘忘れたの。」
「えっ、うん。まさか急に降ってくるなんて思わなくて。はぁ、これからどうしよう。」
彼女は災難だとでもいうように眉を下げている。
俺は傘を持っている。どうする、言うか言わないか。
断られないだろうか。不安を抱えながら口を開く。
「丁度いいことにここに傘を持ってる奴がいるんだけどさ。」
「うん? 何がいいたいの。」
「つまり一緒に帰らないかって言うこと。まあ相合い傘になるんだけどさ一緒に帰れば濡れて風邪引かないだろ。」
声が震える。ああ、今彼女はどんな顔をしているんだろう。怖くて見られない。
「いいの?ありがとう。」
「う、うん。じゃあ行こうぜ。」
今日のことは一生忘れないだろう。顔がニヤけそうになりながら学校を出た。
『相合い傘』
学校の授業が終わり、放課後を迎えて校舎に出たぼくは
たった今恋をしてしまった。屋上から身を乗り出して
飛び降りようとしている知らない少女に。
彼女は僕を見ると、手を振ってそれから──。
まるで羽が生えた天使のようにふわりと舞いながら
落下した。グチャリと潰れた頭からは鮮血が散っていて
花びらのように見えた。誰かの悲鳴が聞こえる。
ああ、なんて美しいんだろう。僕はこの瞬間恋に落ちてしまった。
「本当に綺麗だ。」
そういいながら僕は学校を出る。あの天使に逢うために、落下する場所を探すために。
自分の未来はどうなるんだろう。たまにそんな不安に
襲われる。例えば、友達が自分は将来この大学に入りたいんだと言った時。私はどこへ行って何がしたいんだろうかとそんなことばかり考えている。
そういえば小さい頃何かになりたいとよく言っていたような気がするがもう思い出せない。
だから一応大学進学に向けて勉強していた。
そして終わった後、部屋が汚いから片付けなさいと親に
言われていたことを思い出して片付け始めた。
だが、片付けるうちに懐かしい物を見つけてしまいそれらを手にとっているうちに時間がどんどん過ぎていたためしっかりやろうとした時封筒を見つけた。
その宛名には「未来の自分へ」と書かれていて幼い頃の記憶が蘇った。これは小学生の時に先生に言われて書いた手紙だ。返された後そのままにしていたがこんな所に
あったのか。手に取り封を開ける。
「未来の自分へ。わたしはしょうらいどんな仕事を
していますか。今わたしがなりたいものは動物のお医者さんです。どうしてかというと動物が好きだからです。未来のわたしは動物のお医者さんになれているなら
とてもうれしいです。」
ひらがなばかりでとても読みにくい手紙。けれど思い出した。自分がなりたかった物。そうか、獣医になりたかったのか私は。けれど自分の学力が足りなくてなどと
言い訳をして私はあの頃願ったものから逃げて楽な方へ
行こうとしていたのだ。
「ごめん、諦めて。」
小さい頃の私に私は謝る。
そして、決意した。もう自分を裏切らないために。
未来へ向かうため、どんなに辛くても私は進もう。
『未来』
いつも、図書館で友達と楽しそうに話しながら君が
勉強するのを眺めていた。
だって、君は周りからは人気で話しかける勇気は私には
ない。だからただ見ているだけで良かったんだ。
いつものように好きなシリーズの続編を手に取ろうと
したら手が誰かと触れて慌てて謝ろうと隣を向く。
───そこには憧れの君がいた。顔が真っ赤になるのが
分かる。彼が私に笑いかけて言う。
「この本、面白いよな。君も好きなの?」
「う、うん! ストーリーは王道の恋愛物だけど登場人物たちのキャラがものすごくいいの。」
「ああ、分かる分かる。特に主人公はどんなことにも熱心に向き合ってて好感がもてるよな。」
「そう、そう! まるで──」
まるで君みたいな人。そう言いかけて自分がどれだけ
恥ずかしいことを言おうとしているんだと気付き飲み込んで話題を逸らす。
「でも意外だね。あんまりこういう恋愛系は読まないって思ってた。」
「お、俺だって読んでみたいなってたまには思う時もあるよ。」
何故か目を泳がせて早口になりながら彼は言った。
「なあ、よかったらさこれからも君の好きな本があったらさ教えてくれないか?」
「え? いいけどどうして。」
「いや、俺ももっと本を読んでいきたいなって思って。だから君のおすすめを参考にしたいんだ。
よかったら俺のおすすめも教えるから。」
「それなら全然いいよ。じゃあこれから読書仲間としてよろしくね。」
「ああ、よろしく。」
嬉しい。例え好きな本を語り合う友人であったとしても。これから始まる楽しい日々に胸が踊った。
『好きな本』