私は嘘つきだ。弱い私を知られたくなくてありもしない事をまるで本当のように話す。それで、皆離れてく。
「〇〇ちゃんは嘘ばっかりついてて何が本当なのか
わかんないよ。気持ち悪い。」
何よ。じゃあ私が今本音を言ったって面倒くさいって
笑って切り捨てるくせに。だから友達なんて要らない。
どうせ、私を馬鹿だと思って見下しているんだから。
でも夢に見る。人を傷つける嘘をつかずに正直になり
友達と話す自分の姿を。まあ、そんなの無理だけど。
だって私は嘘をついて他人を攻撃することに安心感を
覚えてしまっているから。なんて最低なんだろう。
「こんな正直になれない私なんて、死ねば良いのに」
毎日、そう思いながらも私は嘘をつく。自分を守るために。正直に自分の気持ちを話すという選択肢を捨てて。
『正直』
梅雨特有のジメジメとした湿気には毎年うんざりする。
それに毎日雨でどんどん気分は暗くなる。
「はぁーっ。」
靴を履き傘を差そうと鞄の中から取り出しながらため息をついていた時にふと肩を叩かれる。
「なあ、ちょっといい?」
「え、は、はい!」
「ごめん、驚かせた?」
そこには私の想い人である彼が笑って立っていた。
「い、いや別に。ていうかどうしたの。」
「実はさ、傘忘れちゃって。」
「珍しいね、こういう時はいつも準備してるのに。」
「まあ俺だって完璧じゃないから忘れる事くらい
あるよ。そこでお願いなんだけどさ一緒に入れてもらってもいいかな?」
迷惑なのはわかってる、と彼が手を合わせながら頭を
下げてくる。迷惑じゃない。むしろ嬉しさでいっぱいになる。だってそれはつまり一緒に帰れると言うことでは
ないか。ああ、でも好きな人の隣なんてとても緊張するしどうすればいいだろう、と悶々としていると
「やっぱり、迷惑だよな。ごめん。」
「ううん、違うの。いいよ、一緒に帰ろう。」
「いいのか! ありがとう。」
彼の笑顔を見て今まで梅雨で憂鬱としていた気分が一気に晴れる。今日は雨で良かった。そう思いながら二人で学校を出た。
『梅雨』
「あっ、おはよう。」
彼女に声をかけられる。僕はドギマギしながらも答える。できるだけ早口にならないように。
「お、おはよう。」
「あはは、そんなに緊張しなくてもいいのに。」
「そ、そうだね。」
ああまったく、なに彼女に気を遣わせてるんだ。本当に
僕は馬鹿だ。これ以上気を遣わせないように話を繋げなくては。
「き、今日はいい天気だね。あのえっと、毎日暑くて嫌になっちゃうね。」
「ねえ、」
「はっはい!」
「天気の話だけでいいの?」
「えっ?」
「本当は私に違う事を話したいんだよね? 大丈夫、ちゃんと聞くから安心して。」
その言葉は僕の臆病な心を引き摺り出してくる。
その通りだ。僕は天気の話なんてどうだっていい。
僕が本当に話したいことは。話したかったことは。
「僕は君のことを───」
『天気の話なんてどうだっていいんだ、僕が話したいことは』
はぁはぁ、息が荒くなって行くのも構わず走り続ける。
「何か」に追いつかれないように。どうして、何で私
なのだ。そう思いながらも走って見つからないように
近くの教室に入って鍵を閉める。そしてロッカーに
潜り込んだ。しばらくはここで休もう。そしてこうなった経緯を思い出す。あれは数十分前の事だった。
「いやー、今日も練習疲れたね~」
「本当! 帰ったらすぐ寝るわ」
「勉強もしなよ? テスト近くなって来たんだから。」
「やばっ、すっかり忘れてた。」
「まったく。」
「あっそういえばさ、知ってる?」
急に彼女がワクワクした顔で聞いてきたので何だろうと
思って聞き返す。だが、大抵こういう時の彼女の答えは
ろくなものではない。
「何をよ。」
「知らないの? 幽霊が出るって噂。」
「知らないけど、どういう噂なの。」
彼女が言うにはこの学校では陰湿ないじめにより命を
絶った生徒がおりその恨みを抱えた魂が今も成仏しきれずに悪霊として彷徨っているらしい。そしてそれに出会うと自分も同じように自殺してしまうのだとか。
「またよく有りそうな話ね。」
「ま、私も信じてないけどさ。」
話しながら歩いているとあるものがない事に
私は気付いた。
「あっ、宿題机の中に忘れてきた!」
「ええっ! 早く取ってきなよ。待ってるから」
そして、自分の教室に向かって歩く。普段賑やかな学校がこんなにも静かで真っ暗だととても
不安になる。ふと噂を思い出す。いやいや、
そんなの嘘話だ。いるわけないと考えていたら
パタン、と足音が聞こえたような気がして振り返る。えっ?となりながらも前を向いた時、
「きゃあああっ!!」
頭から血を流してこちらへ歩いてくる女生徒がいて私は咄嗟に叫びながら逃げ出した。なんでよ、噂は本当だったの。泣きながら逃げて来て私は今ここにいる。でもいつまでもいても学校から抜け出す事はできない。幸い足音も今は
聞こえない。今だ、と考えてロッカーから出た。そして教室の扉を開けた時後ろに気配を
感じた。振り返ることができない。分かる事はただ一つ。私は二度と学校から出られないと いうこと。
「み つ け た」
笑う声がする。
『5月31日、〇〇高校で頭から血を流し倒れている女子高生を発見。教師の証言によると朝鍵を開けたらロッカーの前で倒れており──』
「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」
「ごめんね。」
あなたの泣く声が聞こえて頭を守られる感覚があった。違う、違うよ、そんな言葉が聞きたいんじゃない。どうして? どうして私を置いていくの。待って、お願い。一人にしないで。
「だって君を私の勝手な死に巻き込めない。それに君のこと好きだから生きて欲しいと思った。ありがとう。
一緒に逝ってくれるって言ってくれた時嬉しかった。
だから、君の未来を生きて。」
何で? 私はあなたに恩を返したいの。一人で寂しかった私を救ってくれたんだから。だから、家に居場所が
ないと打ち明けて死にたいと言ったとき今度は私があなたを一人にしないと話して今屋上から飛び降りようと
していたのに。嫌だよ。あなたのいない世界なんて。
そう思いながら顔を上げたときあなたの笑顔が見えた。
そして、グチャッ、と頭の潰れる音がして血が飛び散る。私は守られていたから少し頭を打つだけで済んだ。
騒ぎを聞きつけた人が救急車を呼ぶ声がする。
「ごめんね。」
あの声が私を絶望に叩き落とす。だって私はあなたの願いを断れないから。私はあなたがいればいいのに。
どうして謝るの。涙が頬を伝う。血で見えないあなたの顔を撫でながら意識を失った。
『ごめんね』