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5/28/2023, 12:10:27 PM

夏、蒸し暑さが嫌になる。でも、それ以外に───。
「どうしたの? 真っ赤な顔して。」
「ううん、な、なんでもないよ。」
それ以外に冬服では見えなかったが夏服の半袖になると丸見えになる彼の逞しい腕とそこから流れる汗に私は毎年ドギマギする。
ああ、夏で暑い体がさらに暑くなって下敷きで仰ぎながら私は窓から空を眺めて彼と話をする。


彼女は夏になるといつも顔を赤くする。その理由は半袖になって半袖から見える俺の腕にドキドキしているからだろう。その姿が可愛くてからかうように毎年見せて
いるのだ。だから俺は夏服の半袖を着られるこの夏が一番好きだし、楽しみでもある。ああ、早く君がこの俺の恋心に気付きますように。そう思いながら今日も君に
話しかける。
「どうしたの? 真っ赤な顔して。」

『半袖』

5/27/2023, 4:44:26 PM

「──どうしよう、殺しちゃった。」
彼女は泣きそうな顔でそう言った。
彼女の足元には仰向けに目にハサミが刺さったまま倒れている担任がいた。
「ど、どうして? こんな事になったの?」
「あのね、私少し前からこの男にその、言えないことされてて。写真も撮られてたの。でも最近私に飽きて来て
って言われてそしたら今度はあなたにするって言ってて
それ聞いて気付いたら私───。」
そういうことか。彼女は私のために罪を犯したか。
ああ、でもこの光景は地獄以外の何にもでもない。
血が飛び散った机。担任の血で塗れた彼女。何回も刺したのか血がまだ広がり続けている。
吐き気を込み上げる。どうすればいいのだろう。
明日は映画を見ようと約束したけどこれじゃ行けないな。天国から地獄へ叩き落されるような気分になる。
誰か、誰かこの地獄から私達を助けて。
体中血まみれのままの彼女を見て私は泣き出した。

『天国と地獄』

5/26/2023, 11:36:53 AM

夜、あなたを想い眠れない日は窓から空を見上げれば
光輝く満月がそこにある。
月の光は暗い私の心を少し明るくさせる。
そして、また明日あなたに逢う日を夢見て眠るのだ。
月に願いを込めながら。
「───私の想いが彼に届きますように。」
そんな叶わない奇跡を今日も呟く。

『月に願いを』

5/25/2023, 2:47:24 PM

雨が降っている。いつまでも止む気配はなく、川の流れを激しくさせている。彼女の冷たい手が私の手を握って離さない。大丈夫よ、怖くない。彼女がいるから私は一人なんかじゃない。それに決めたじゃないか、このまま
生きていきたくないから一緒に死ぬと。
「ねえ、もしかして怖い?」
「そりゃあ、怖いに決まってるよ。」
だって私達はこれからこの荒れ狂う川に飛び込んで心中しようと言うのだから。こうなった発端の日を思い出した。あの日は確か、彼女に初めて出会った日だ。
私は引っ込み思案でなかなか人に話しかけるのが苦手で
いつも吃ってしまうしドジばかりしていたから皆から少しずつ迷惑がられていた。いじめと言うには軽いが誰かから話しかけられることもなくペアワークの時も避けられている感じがあった。じわじわと仲間はずれにされている感覚が私を苦しめていた。そんな時だ。
「どうしたの、そんな悲しい顔をして。」
えっ?と思い顔を上げるとそこには容姿端麗で美しい黒髪の女の子がいた。その子は学校では孤高で有名で誰も近づけさせないはずなのに、なぜ私に話しかけるのかと考えて彼女に答えた。
「皆、私をいない者として扱うのが悲しいから。」
「そう、だったら私があなたの友達になるわ。」
「どうして?」
「そんな寂しそうな顔をしていたら誰だって心配になるわ。それにあなたは可愛くて素敵だから。」
「そんな風に言われたの初めてだよ。」
気がつけば笑っていた。それから彼女との交流が始まり
昼休みはいつも屋上でご飯を食べ放課後では一緒に図書室で話をした。どんな悲しい事も忘れられた。
だけど、ある時からクラスで無視されるどころかわざとぶつかられる回数が多くなった。その理由はクラスの中心の子が彼氏に振られたイライラがいつも引っ込み思案だったのに楽しそうにしている私に向いたのだろう。
どんどん酷くなって私は耐えられなくなった。
そして、昨日彼女に言ったのだ。
「どうしよう。もう私辛い、死にたいよ。」
「解ったわ、一緒に死にましょう。」
そうして、今私達はここにいる。ざあーっ。ざあーっ。
雨の音はどんどん大きくなっていく。
「最後に一つ聞きたいの。どうして私と一緒に死んでくれるの?」
「私もね、家族から虐待されてるの。あなたには見えないようにしてるけどこの体には痕が沢山あるわ。」
「そうだったんだ。」
「同じ目をしたあなたに出会った時、運命だと思った。もし一緒に死ぬんならあなた以外は考えられないと思うくらいにはね。」
初めて彼女の本音を聞けた気がして嬉しくなって私も本音を零す。
「実はね私雨が一番好きなんだ。なぜなら雨は悲しい事、辛い事で流れた涙を隠してくれるから。」
「ふふっ、私もよ。やっぱり運命ね、私達。」
あはは、と笑い合う。雨で濡れた体は冷たいが
心は暖かった。さあ覚悟は決まった。今こんなにも幸せな日はない。どんどん雨は酷くなり風も強くなる。
「じゃあそろそろ行きましょうか。」
「そうだね。」
二人で川の底へ向かっていく。川面が膝、腰、そして胸にまで到達した時、体はついに沈んだ。二人で抱きしめ合いながら沈む時最後に聞こえた雨音はまるで私達を祝福する拍手のようだった。

そうして、二人の少女はこの世界から姿を消した。
なんの痕跡も残さないまま。いつまでも振り止まない雨だけが彼女たちの行方を知っている。

『いつまでも振り止まない、雨』

5/24/2023, 1:03:42 PM

受験を終え、大学に近いアパートへ引っ越すために荷物を片付けていた時高校からつけていた日記を見つけた。
懐かしい。あの頃いつも、何もできないと感じて将来のことなんて考えられなかった。どうすればいいのか、皆は少しずつ決めて未来に進んでいるのに。そんな風に
思い詰めて死にたいとさえ考えていた。
「ねえ、私は一体どうすればいいの。このまま死にたい
誰か助けて。」
書き殴られたその文字に胸が苦しくなって切なくなる。
ああ、あの頃すべてが不安で見えるものすべて敵に感じていた私へ。今の私は自分がやりたい事のために未来に
向かって前を歩けているの。だから───。
「大丈夫、大丈夫だよ。進むことは怖くないよ。」
過去の私へ、どうか伝わりますようにと願いを込めて
文字を書き込んだ。

『あの頃不安だった私へ』

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