雨が降っている。いつまでも止む気配はなく、川の流れを激しくさせている。彼女の冷たい手が私の手を握って離さない。大丈夫よ、怖くない。彼女がいるから私は一人なんかじゃない。それに決めたじゃないか、このまま
生きていきたくないから一緒に死ぬと。
「ねえ、もしかして怖い?」
「そりゃあ、怖いに決まってるよ。」
だって私達はこれからこの荒れ狂う川に飛び込んで心中しようと言うのだから。こうなった発端の日を思い出した。あの日は確か、彼女に初めて出会った日だ。
私は引っ込み思案でなかなか人に話しかけるのが苦手で
いつも吃ってしまうしドジばかりしていたから皆から少しずつ迷惑がられていた。いじめと言うには軽いが誰かから話しかけられることもなくペアワークの時も避けられている感じがあった。じわじわと仲間はずれにされている感覚が私を苦しめていた。そんな時だ。
「どうしたの、そんな悲しい顔をして。」
えっ?と思い顔を上げるとそこには容姿端麗で美しい黒髪の女の子がいた。その子は学校では孤高で有名で誰も近づけさせないはずなのに、なぜ私に話しかけるのかと考えて彼女に答えた。
「皆、私をいない者として扱うのが悲しいから。」
「そう、だったら私があなたの友達になるわ。」
「どうして?」
「そんな寂しそうな顔をしていたら誰だって心配になるわ。それにあなたは可愛くて素敵だから。」
「そんな風に言われたの初めてだよ。」
気がつけば笑っていた。それから彼女との交流が始まり
昼休みはいつも屋上でご飯を食べ放課後では一緒に図書室で話をした。どんな悲しい事も忘れられた。
だけど、ある時からクラスで無視されるどころかわざとぶつかられる回数が多くなった。その理由はクラスの中心の子が彼氏に振られたイライラがいつも引っ込み思案だったのに楽しそうにしている私に向いたのだろう。
どんどん酷くなって私は耐えられなくなった。
そして、昨日彼女に言ったのだ。
「どうしよう。もう私辛い、死にたいよ。」
「解ったわ、一緒に死にましょう。」
そうして、今私達はここにいる。ざあーっ。ざあーっ。
雨の音はどんどん大きくなっていく。
「最後に一つ聞きたいの。どうして私と一緒に死んでくれるの?」
「私もね、家族から虐待されてるの。あなたには見えないようにしてるけどこの体には痕が沢山あるわ。」
「そうだったんだ。」
「同じ目をしたあなたに出会った時、運命だと思った。もし一緒に死ぬんならあなた以外は考えられないと思うくらいにはね。」
初めて彼女の本音を聞けた気がして嬉しくなって私も本音を零す。
「実はね私雨が一番好きなんだ。なぜなら雨は悲しい事、辛い事で流れた涙を隠してくれるから。」
「ふふっ、私もよ。やっぱり運命ね、私達。」
あはは、と笑い合う。雨で濡れた体は冷たいが
心は暖かった。さあ覚悟は決まった。今こんなにも幸せな日はない。どんどん雨は酷くなり風も強くなる。
「じゃあそろそろ行きましょうか。」
「そうだね。」
二人で川の底へ向かっていく。川面が膝、腰、そして胸にまで到達した時、体はついに沈んだ。二人で抱きしめ合いながら沈む時最後に聞こえた雨音はまるで私達を祝福する拍手のようだった。
そうして、二人の少女はこの世界から姿を消した。
なんの痕跡も残さないまま。いつまでも振り止まない雨だけが彼女たちの行方を知っている。
『いつまでも振り止まない、雨』
5/25/2023, 2:47:24 PM