「タイムマシーン」
タイムマシーン。これをお題に作文をかけと言われて早一週間。僕はまだ一行しか書けていない。
周りの人達は、楽しそうに書き、満足そうに提出しているのに対して、僕は憂鬱な気分で次の文字を書けないままでいた。
だってよく考えてみろ。そんなものあって何がある。未来を見て、もし自分が居なくなっていたら? 過去を見て、自分を消してしまいたい衝動に駆られたら?
今を見るだけでも辛いのに、未来や過去なんて見たら、僕はきっとどんな結果であれ、後悔するだろう。
『もしもタイムマシーンがあったら、僕はきっと』
ここで止まって次に進めない。バカ正直に書いたとして、後悔することは目に見えている。だから綺麗事を書くしかない。
でもその綺麗事すら思いつかない。だから僕は作文が苦手なのだ。
この作文は、卒業式前日に封筒に入れたものを僕らが入学した年に植えた桜の木の下に埋めるそうだ。開けるのは二年と数ヶ月後。全員が二十歳になる頃だ。
だからこれはほぼ未来の自分に向かって書くものとして扱っても間違いではない。だから余計に書き辛いのだ。
未来なんて考えたくない。今この瞬間すらキツイのに、未来の僕はどれだけの重圧に耐えているのだろうか。そう考えるだけで頭が重い感情で埋め尽くされる。
嗚呼、嫌だ、今にも破きそうだ。本当に書きたくない。考えたくない。それでも期限は今週中で、今は水曜日。時間がない。
そんな時、一つの案が浮かんだ。これなら書ける。それに、この作文は自由性を求められるので先生のチェックは入らない。ならば、アレにしてしまおう。
そう思い一度全て消して書き進めていくと、不思議と筆は紙の上を滑る。書き終わり、封筒に入れて先生に渡す。
「なんだ、期限内に終わるなんて珍しいな」
「まぁ……はい」
先生はそれをタイムカプセルの中に入れた。それを見届けて、僕は席に戻った。
そして二年数ヶ月後。春の風が優しく吹く中、元子供たちはタイムカプセルを開けた。
一人、来ていない者がいたが、事情は全員把握していて、開けることにした。
「……ひっ!」
その中には、憎悪の詰まったいじめの告発文とその証拠の在処、そして、遺書と見られるものが書かれていた。
彼はタイムカプセルを埋めたあと、母親にタイムマシーンに乗ってアイツらを後悔させてやる。そう言って家から出て、後日遺体となって見つかった。
体にあった痣などから虐待といじめが疑われたが、結局証拠不十分で、ただの自殺となっていた。
ずっと怪しまれていた母親も、これで肩の荷がおりただろう。そして、犯人たちの人生はこの瞬間から、壊れていくのだった。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。僕はアイツらに殺されました。いじめのせいで不登校になった時、何も聞かないで休ませてくれてありがとう。幸せでした。迷惑かけてごめんなさい。大好きだよ」
「そして、僕をいじめてきた奴らへ。地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ地獄に落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ」
「どうして」
どうして僕は、普通になれないんだろう。
勉強も運動も、人との関わりも苦手で、何も特技も目立つこともなく、ただただ生きているだけ。
精神を病んで、普通になんてもう戻れない。なんで僕だけ。
どうして、どうしてどうしてどうしてどうして。どうして僕はこんなんなんだろう。
兄は優秀な外科医で、弟はサッカーのスポーツ推薦で学校が決まり、今も活躍している。母はキャリアウーマンで父は会社を経営している。
僕は、高校三年生になっても進路が決まることもなく、ただただ無駄な一日がすぎていく。
どうして僕ばかり。そんな気持ちがぐるぐる頭を侵略してくる。
住んでいるマンションの屋上へと向かい、後ろを向いて身を任せる。
「(あーあ)どうしてかなぁ」
「色とりどり」
おかあさんがいうの。
「あんたは病気なの、お願いだから薬を飲んでよ」
でもね、わたしはびょうきじゃない。めのまえにひろがるにじいろのせかい。これはてんごくなんだ。
「お母さんここは天国なんだよ」
そういうとおかあさんはなきだした。まわりのてんしたちがおかあさんをなぐさめる。
「きれーだねー」
たのしくてわらう。きれいだからわらう。てんしたちとはなしてわらう。
でも、おかあさんはないてる。
へんだなぁ。てんごくでなくなんて。おかあさんはじごくにいるとおもってるのかな。
「天国だよ。天国なんだよ。だから泣いちゃダメだよ」
おかあさんがたちあがる。てにもってるのはまほうのすてっき。それをふりかぶる。
きっとまほうをみせてくれるんだ!
「おかあさ」
ゴッというおとがなって、めのまえがちかちかした。にじいろのせかいが、しろくろにかわって、わたしはねてしまった。
「母目線」
私の娘は病気だ。彼女が見ている世界は私たちとは違う。薬を飲んでいた頃は落ち着いていたのに、薬を飲まなくなって、言動がおかしくなった。何度も薬を飲むように促しても、話が通じず会話にならない。
「あんたは病気なの、お願いだから薬を飲んでよ」
そう言うと娘は支離滅裂なことを言い始める。
「天国お母さんここはお母さんだよ天国なんだ」
もう治らないんだ。そう思うと涙が溢れて膝から崩れ落ちる。
すると娘はきゃっきゃと笑い始めた。またなにか見えているのだろう。
「きれーだねー」
もう駄目なんだ。私の手には追えない。
「天国だよ。天国なんだよ。駄目だよだから泣いちゃダメ天国天国天国綺麗だねぇ」
支離滅裂なことを繰り返し言う娘は相変わらず焦点が合わない。
意を決して立ち上がって、近くにあった夫のゴルフクラブを持つ。娘はキラキラとした目でこちらを見ている。
振りかぶって、振り下ろす瞬間、まだ幼く普通だったあのころのような表情でこちらを見ている娘と目が合った。
「おかあさ」
ゴッと鈍い音がして娘が倒れ込む。
「ごめんね。お母さんも行くからね」
そう言って私はベランダから娘のいる所へと向かうのだった。
「雪」
……無い。私の靴が無い。下駄箱を開けた途端に大量にゴミが詰められていたので全てゴミ箱に入れたが靴が入っていなかった。
またか。そう思い色々な場所を探す。暫くして窓に反射しているのを見て、下駄箱の上に置かれていることに気付いた。
背が低い私が気付けないと思って置いたのだろう。取るのも大変で、何度もジャンプしてなんとか取れた。
靴は濡れていて、中には砂が入っていた。できる限り取ったけど、履いたらぐしょぐしょなのに加えてジャリジャリしている。最悪だ。
そのまま外に出て、とぼとぼと家に帰る。靴が気持ち悪くて足が重い。それに今日は雪の予報だから、酷く寒い。足の感覚がなくなってきた。
本当は自転車で通学しているけど、今日駐輪場をみたら無くなっていたので多分また勝手に使われたのだろう。鍵もなくなっていたし、どこかに乗り捨てられるのがオチかな。
自転車ではそこまで遠く感じないが、徒歩だとかなり時間がかかる。
ふと、目の前をちらりと何かが横切った。空を見てみると雪が降り始めていた。
「……寒いなぁ」
雪はどんどん降ってきて、じわじわと体が濡れて冷えていく。
足も痛くて、途中の公園で一度休むことにした。ベンチに座ってぼーっと空を見上げる。
ふわふわとした綿雪がどんどん積み重なっていく。明日は晴れだから、積もってるのが見れるのは今日位かな。
今日は体育もあったので疲れていて、眠くなってきた。
どうせ家に帰ってもやる事ないし、少し休憩するくらい、いいよね。
そう思いカバンを抱えて目を瞑る。直ぐに私の意識は微睡みに落ちた。
次の日、中学生の少女が公園で冷たくなった状態で発見された。靴やカバンを調べたところ、いじめと見られる痕跡があった。
足先は壊死しており、手首には自傷と見れられる傷があったため、見た目は綺麗な割に、凍死を選ぶほどの悲惨な精神状況だったと推測された。
だが、少女の顔は幸せな夢を見ているかのような、穏やかな顔をして永遠の眠りについていた。
彼女はきっと、夢の中で楽しく過ごしているのだろう。そう言って彼女の父親は涙を流していた。
誰もが彼女は望んで長い眠りについたと思ったが、彼女はまた、夢の中でも日常を繰り返すのだった。
「はぁ……またノート買い直さなきゃ」
夢の世界とも知らず、彼女は今日もいつも通りを繰り返し、解き放たれることのない地獄を彷徨い、生きていくのだった。
「君と一緒に」
汐風が吹く中、君と二人で崖の上で腰掛けて色んな話をする。
出会った時の話、喧嘩した時の話、お互いの両親の愚痴、先生への文句、出会ってきたろくでもない奴の特徴についての議論、そして、楽しかった思い出、沢山話した。
どんどん夜は深くなり、話の話題もなくなり波の音しか聞こえなくなって、着いた時よりかなり寒くなっていた。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
石を適当に拾ってポケットに詰める。そしてお互いの手をガムテープでグルグルと固定する。
寒さか恐怖か分からない震えのまま下を見る。高い。下は水だが高さがあるので助かることはないだろう。
「どうせならさ、せーので一気にジャンプしようよ」
君が笑ってそう言うから、僕も釣られて笑ってしまった。もう怖くない。
「いいね……一緒に天国に行こうね」
「うん。もし地獄に落ちても一緒にいようね」
「もちろん。じゃあ行くよ、せーの!」
手を振ってジャンプする。君と一緒なら、どこへだって行けるよ。
――続いてのニュースです。○○中学校に通う男子生徒二人が行方不明となっております。警察は事件に巻き込まれた可能性もあるとして、捜索を続けております。