「色とりどり」
おかあさんがいうの。
「あんたは病気なの、お願いだから薬を飲んでよ」
でもね、わたしはびょうきじゃない。めのまえにひろがるにじいろのせかい。これはてんごくなんだ。
「お母さんここは天国なんだよ」
そういうとおかあさんはなきだした。まわりのてんしたちがおかあさんをなぐさめる。
「きれーだねー」
たのしくてわらう。きれいだからわらう。てんしたちとはなしてわらう。
でも、おかあさんはないてる。
へんだなぁ。てんごくでなくなんて。おかあさんはじごくにいるとおもってるのかな。
「天国だよ。天国なんだよ。だから泣いちゃダメだよ」
おかあさんがたちあがる。てにもってるのはまほうのすてっき。それをふりかぶる。
きっとまほうをみせてくれるんだ!
「おかあさ」
ゴッというおとがなって、めのまえがちかちかした。にじいろのせかいが、しろくろにかわって、わたしはねてしまった。
「母目線」
私の娘は病気だ。彼女が見ている世界は私たちとは違う。薬を飲んでいた頃は落ち着いていたのに、薬を飲まなくなって、言動がおかしくなった。何度も薬を飲むように促しても、話が通じず会話にならない。
「あんたは病気なの、お願いだから薬を飲んでよ」
そう言うと娘は支離滅裂なことを言い始める。
「天国お母さんここはお母さんだよ天国なんだ」
もう治らないんだ。そう思うと涙が溢れて膝から崩れ落ちる。
すると娘はきゃっきゃと笑い始めた。またなにか見えているのだろう。
「きれーだねー」
もう駄目なんだ。私の手には追えない。
「天国だよ。天国なんだよ。駄目だよだから泣いちゃダメ天国天国天国綺麗だねぇ」
支離滅裂なことを繰り返し言う娘は相変わらず焦点が合わない。
意を決して立ち上がって、近くにあった夫のゴルフクラブを持つ。娘はキラキラとした目でこちらを見ている。
振りかぶって、振り下ろす瞬間、まだ幼く普通だったあのころのような表情でこちらを見ている娘と目が合った。
「おかあさ」
ゴッと鈍い音がして娘が倒れ込む。
「ごめんね。お母さんも行くからね」
そう言って私はベランダから娘のいる所へと向かうのだった。
1/9/2026, 3:01:53 AM