『別れ際に』
「またね。」
そう残して、私の前から遠ざかっていく彼。
「待って!」
「どうしたの?忘れ物あった?それならごめん。」
「違う。」
そこで止まってしまった私を抱きしめてくれる彼。
「寂しくなっちゃった?」
「............。」
「何も言わずに俺がいなくなることはないから。」
「そうかもしれないけど、。」
「それでも心配?」
「そういうことじゃなくて....。」
「じゃあ、なに?」
明らかに分かっているのに聞いてくる彼。
「帰ってほしくないの...?」
「まだ、居てよ。」
「よくできました。」
そう言って私の頭を撫でてくる彼。
「そう言ってくれるの待ってた。俺も帰りたくなかったし。」
「大好き。」
「俺は愛してる。」
漫画のような会話をしたあの日。
あれからもう3年か。
何も言わずにいなくならないと言った彼は、
私の前からあっさりと姿を消した。
「私も愛してたよ。また来るね。」
そう言って、私は彼に背を向けて歩きだした。
『窓越しに見えるのは』
窓越しに見えるのは、朝に照りつける太陽、
それとも出勤するサラリーマン、登校する学生。
それとは打って変わって、疲れてヘトヘトになった夜勤明けの人。
「昼どこにします?」と話してるであろう会社員、
暑さに耐えながら交通整理をしている人。
呑気に石垣の上を歩いている猫、
リードに引かれてのそのそ歩いている犬。
「どこで遊ぶ?」「公園!」「えー、○○の家がいい」などと話しながら帰る小学生、
スマホを片手に早々と帰る高校生、
疲れた様子な部活生。
「今日の夜ご飯何?」と電話で聞きながら帰路についてるサラリーマン、
時にはビニール袋を提げている会社員。
テーブルを家族で囲んでいる家。
やっと帰ることができたのであろう残業をしていた会社員、
たまに、夜の仕事をし終えた人たちも。
街が寝静まった後の真っ暗な世界。
そう考えると普段見ている景色は誰かに窓から覗かれているのかもしれない。
一日の中で見える景色は違うけれど、その一日の中でたくさんいろんなことが起こっているのだろう。
『赤い糸』
私とあなたは赤い糸で結ばれている。
そう思っていた。
私があなたを好きになったのはあなたの席が私の右斜め前になったときのことだった。
私はあなたの後ろ姿が好きだった。
何事にも真剣に取り組み、何事にも全力。
あなたのその姿に惚れ込んだのだった。
その年のバレンタイン。
私はあなたにチョコをあげる決意をした。
それと同時にこの気持ちを伝えようとも。
「ねぇ今日の放課後17時までに体育館裏に来て欲しい」
そうあなたに声を掛けた。
あなたはただ、「分かった」とだけ言い、その場から離れていった。
その日の放課後あなたは約束通り17時に体育館裏に来てくれた。
「呼び出してごめんね。でもどうしても渡したいものがあって」
と言って、前日に夜な夜な作ったチョコを取り出した。
「チョコ」
言うって決めたんでしょ。言わなきゃ。
「ずっとあなたのことが好きでした。付き、」
「待って。俺から言わせて。ずっと好きでした。こんな俺で良ければ付き合ってください」
「はい!私でよければよろしくお願いします」
そうやって始まった私たちの恋愛は嘘だったってこと?
最初っから私なんか目にも入ってなかったってこと?
私の心を支配したかっただけなの?
なんて、今頃聞いても遅いか。
あなたは婚約指輪と私がこれまであげた全てのものを置いて消えてしまったのだから。
私たちは『赤い糸』で結ばれているんじゃなかったの?
それなのになんで私だけ残して、あなたは私の前から消えたの?
答えてくれるわけもなくただ問い続け、私は彼を追っていった。
『入道雲』
小さい頃、無邪気に走り回って見つけた雲。
「あの雲何ー?変なの〜」
「変じゃないよ。それは入道雲っていうの」
そう教えてもらった。
「入道雲ができると雨が降る合図なんだよ」
そうも言われた記憶がある。
今思えばたしかに、入道雲を見れば雨が降るという認識になってるなと。
そして、夏が来たなと。
『夏』
夏。
正直私は好きな季節ではない。
理由?
暑いのが嫌いだから。
もうひとつ、寒さは重ね着すれば耐えられるけれど、暑さはどうやっても凌げないから。
それだけかって?
そう。これだけ。
強いて言うのなら、誕生日が冬だからってぐらい?