喜楽ここあ

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12/22/2024, 12:40:37 PM

「ゆずの香り(創作)」

陶芸の道に進みたくて、大学を卒業したあと愛知県にある窯元に就職した。

陶芸家は「土こね3年、ろくろ8年」といわれるほど、技術を獲得して1人前になるまでに時間のかかる。初任給だけでは到底食べては行けなかった。

「今日の土はどんな感じ?」

ひょっこり顔を出したのは、近所に住む東さんという人だった。東さんはずっとサラリーマンをしていたけど、50歳を過ぎた頃から、どうしてもやりたかった造園業の勉強をして、一人親方で夢を叶えた人だ。夢を叶えたと言うだけで、私にとっては目標となる人だった。


東さんは、籠いっぱいの柚を持ってきてくれた。

「これ、お客さんからもらったの。良かったらもらって。腹の足しにはならないけど」

「嬉しい。いただきます!」

「いつか僕にお皿作ってよ、酒も美味しくなるような皿だぞ」

「まだまだ先だけど、約束する」

受け取った柚を1つ手に持つと、ふかふかで柔らかい。ジューシーなジャムを作るにはちょうどいい。

「お皿はまだ作れないけど、ジャム作って今度持っていくね!」


柚の皮を細かく切る度に、東さんに背中を押された気分になってくる。フレッシュな爽やかな香りに包まれて、私はまた明日へ向かっていく。

12/21/2024, 11:57:05 AM

「大空(創作)」

何をするにも勇気がない私は、いつも同じところにとどまったまま。

空を見上げると悠々と飛ぶ鳥が、弧を描いて飛んでいった。

「絵で生きていきたいんだ…」

両親に相談するも、「 売れる人なんて氷山の一角。簡単になれるもんじゃない」と言われて、そうかと納得してしまい、直ぐに諦めた。

本気でやりたいなら、そんな言葉を蹴飛ばすくらいの勢いで立ち向かうはずのに、少しも抵抗することなく、、じゃあ辞めようかなと別の道を選んだ。

それでも絵を描くことが好きで、SNSに出すと、すごく褒めてくれて、いいねを沢山貰うことが出来る。もしかして私、絵で食べて行けるかもしれないとさえ思ってしまう。

ただ、この道でやるんだ!という決意がなかなか持てなかった。まだ、若いんだし…という言葉を聞く度に、何度も羽ばたこうと頑張ったが、上手い人の絵を見ては、巣から出られない雛鳥のようにじたばたともがく。努力もしないのに、もがくだけ。

私も、飛びたい。飛びたい。
飛び出そう。あの大空に。

12/17/2024, 11:21:33 PM

「とりとめもない話(創作)」

食器がカチャンと重なる音。ドアが開きお客さんが入ってくる音。どこの国だか分からない、民族風の音楽。そして会話。

「旦那がさぁ、今度、転勤らしくて」

「単身?! 家族で行く?」

「まだ決まってないの… 」

わたしの目の前に座っている2人の友人が話出した。そこに私の隣の友人が加わる。

「出張とか転勤とか、味わってみたーい」

「何言ってるの。ほんとに大変なんだから」

と、私も話に加わると、自然に違う会話へと移り変わる。

「昨日、私の推しの歌番組見てくれた?めっちゃ、かっこよかったァ」

「見て!と言われたから見たよ。いいなぁ、推しのいる生活!」

「作りなよー!毎日楽しいよ」

「ところでさ、このコーヒーすごく美味しい」

話を止めて、みんなで頷く。次はわたしが話す番!と決めなくても、改めて見ると、私達の口からは、泉のように話題が溢れ出る。それがなんだか面白くて、くすっと笑ってしまった。

「え?!何、、笑ってんのー気持ち悪いー。あ、気持ち悪いといえばさ! 」

とりとめもない話は、あと3時間続くだろう。

12/15/2024, 2:21:12 PM

「雪を待つ(創作)」

朝から寒いなぁって思っていたら、パパもママも肩をすぼめて「寒い 」って言ってた。

ぱあーっとカーテンを開けたら、ふわふわしたものが上から降っていて、庭も真っ白になってて、前が見えないくらいだった。

こ、これはなんなんだ?!
僕が一瞬固まったのを見て、パパとママがくすくすと笑った。

そんなことはお構い無し!ママが窓を開けた瞬間僕は、外に飛び出した。

冷たい白いものに包まれて、なんだか楽しくなって大はしゃぎしちゃった。
全身ベタベタになったけど、はしゃいでいたから全然寒くなかったよ。
あの時は楽しかったなぁ。
また降らないかなぁ、白いふわふわして、冷たいの。

今いる部屋は、あたたかくて、ウトウト眠くなっちゃうけど·····ふぁーーー

「あ、雪!」

ママが、嬉しそうな声で言った。

え?!雪?!
僕は、喜びのあまり、ちぎれるほどしっぽを振った。

12/13/2024, 12:43:12 AM

「心と心(創作)」

隣の人は何をやっている人なのか、分からない。朝は7時、夜は8時くらいに帰ってくるからOLさんなのだろうか。時間だけで人の職種までは分からないか。

小さなベランダに置いてある、植木に水を含ませた。空を見上げると眩しいくらいの光が私を照らした。

散歩でもしようと思わせてくれた太陽さんには申し訳ないほど、誰にも会わないし、声もかからない…同じマンションの人とすれ違っても無闇には声を掛け合わない。


ネットを見ると、意気揚々とした言葉や、威勢の良い言葉が並んで、その下にそれをまた攻める言葉…そして遠くからは、そのことを言っているんであろう謎の独り言…

この人たちはどんな仕事をして、どんな生活して、どんな気持ちで言葉を紡いでみいるのだろう。ちょっと、悲しい気持ちになって、パソコンを閉じた。


「もしもし、お母さん?」

「どうした?何かあった?」

「やっぱり、会って話す。特に何があった訳じゃないよ。話したいだけ。来週末帰るから、肉じゃがよろしく!」

「わかったよ。待ってるね」

人との繋がりって時には面倒なことが多いけど、だけどやっぱり、ひとりの世界は孤独すぎる。


めんどくさいけど、繋がりは求めてる、わがままな自分がいた。

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