「ゆずの香り(創作)」
陶芸の道に進みたくて、大学を卒業したあと愛知県にある窯元に就職した。
陶芸家は「土こね3年、ろくろ8年」といわれるほど、技術を獲得して1人前になるまでに時間のかかる。初任給だけでは到底食べては行けなかった。
「今日の土はどんな感じ?」
ひょっこり顔を出したのは、近所に住む東さんという人だった。東さんはずっとサラリーマンをしていたけど、50歳を過ぎた頃から、どうしてもやりたかった造園業の勉強をして、一人親方で夢を叶えた人だ。夢を叶えたと言うだけで、私にとっては目標となる人だった。
東さんは、籠いっぱいの柚を持ってきてくれた。
「これ、お客さんからもらったの。良かったらもらって。腹の足しにはならないけど」
「嬉しい。いただきます!」
「いつか僕にお皿作ってよ、酒も美味しくなるような皿だぞ」
「まだまだ先だけど、約束する」
受け取った柚を1つ手に持つと、ふかふかで柔らかい。ジューシーなジャムを作るにはちょうどいい。
「お皿はまだ作れないけど、ジャム作って今度持っていくね!」
柚の皮を細かく切る度に、東さんに背中を押された気分になってくる。フレッシュな爽やかな香りに包まれて、私はまた明日へ向かっていく。
12/22/2024, 12:40:37 PM