『祈りを捧げて』
僕は毎朝、手を合わせてあなたを想う
あなたは僕の神様だから。
あなたを見ている僕は
きっと綺麗で入れるから
あなたを感じれる僕は
きっと正しくあれるから
あなたという存在が
僕を世界に馴染ませてくれるから
だからあなたに祈る
“今日も、明日も、明後日も
来週も、来月も、来年も
僕が人間であれますように”と
人間でなくなってしまうと
あなたに会えなくなってしまうから。
『遠い日の温もり』
愛されたかったよ
僕だって、人並みの幸せを願っていた
君に愛されたくて、はや6年
君との、初めてのデートで
僕は浮かれちゃって
君も楽しかったのかななんて、勝手に思ってた
でも、違ったんだね
二人のカラオケも、傘に入れてくれた時も、チュロスを一口くれた瞬間だって、
君は、心底僕のことを気持ち悪いって思ってたんだろ?
思わせぶりだとか、そういうことは思わないよ
だって実際僕は気持ち悪い
泥のようだと自覚していて、それを隠せた気になっていただけだったんだ
漏れてたんだよね、醜い僕が
それなら君は悪くないよ
君を好きになった、僕が罪人だ
君は、優しすぎただけなんだ
ごめんなさい
僕はもう、人を愛さないようにいきていきますから
人間じゃない僕は
愛されませんから。
『時を結ぶリボン』
散歩をしていた。坂道の下にカメラ屋さんが見えてきた。なんだか惹かれて、カメラが好きなわけでもないけど入ってみる。案の定、何もわからない。聞いたことのないメーカーやら、どこの部品かの検討もつかない小さなレンズ。ぐるぐると見て回っていると、映画のフィムルが目に留まった。フィムルの端に黒い線が通っていて、何かに巻くタイプのフィルムだ。恐らく。店頭に並ぶそれは、巻いてある状態で置いてあって、素人の僕からすると乾電池のように見えなくもない代物だった。なんとなく気に入って、二個手にとってレジへ向かった。千円札を三枚出して、気怠げな店員へと渡す。小銭が五、六枚帰ってきて、僕はビニール袋を手に店を出た。
家に帰りビニール袋からフィルムを取り出す。決して安くはない出費だから満足させてくれよ。そう念じながらコトリとフィルムを机の上に置く。勢いで買ったものの、使い方を知らない。スマホで使い方を調べようと思ったがそれはなんだか癪に触る。自己流で行こう。フィルムを引っ張って見るとよく見る、俗に言うフィルムというものが現れて、僕の心を軽くくすぐった。調子に乗った僕はある程度の長さに伸ばしたフィルムをハサミで切り取り、蝶々結びにした。どうしても硬かったため、強引で不恰好な仕上がりになってしまった。流石に悔しいと思いもう一度挑戦する。今度は最初に折れ目をつけて、折れ目を上手く馴染ませながら曲げていく。
「うん、なかなか悪くないな。」
出来上がったリボンはどこか昔を思わせる風貌で、する筈のない黴の匂いが鼻の奥を通り過ぎる。縁の黒と、何かを映すであろう白い部分があり、シックな質感を醸し出していた。僕はそのリボンを窓際に置き、少し離れた机に伏しながら横目で眺める。夕陽の光がフィルムを通り抜けて、少し濁った白色になっている。床や壁に浮かび上がる光は、温かみのある橙、光のない黒、そして濁った白。シルエットは可愛らしいリボン。その全てを目にして、やっと、良い買い物をしたと心から思った。明日は違う結び方も試してみよう。
『手のひらの贈り物』
手を繋ごう。
君はあの時そう言って、僕の手を握った。それで、僕の手を引っ張りながら走って、太陽の光が眩しくて僕は目を瞑っちゃった。陽の光が暖かくて。特に、君に握られている手が。指先の血管から、温もりが身体中に巡り出して、呼吸をするたび、心臓が胸を叩くたび、僕は人間になっていく。浄化されていく。僕は、僕はここに居てもいいと、君の手から、君の温もりから肯定されてく。
この手を、離したくない。この手を離したら、また醜い泥になってしまうから。だから、君の手が欲しい。
『心の片隅で』
くすんだ色の木の扉を開けると、どうでもいい思い出ばかりが転がった、僕の部屋。足の踏み場もないほどに、学校の、教室ほどの大きさの部屋を埋め尽くしている。
「これを全部捨てて欲しいです。そう、全部です。塵ひとつ残さずに失くしてほしいです。」
僕は隣に立つ人物に向かって言う。この人はおそらく清掃員だろう。きっと、僕の思い出を優しく殺してくれる人だ。清掃員は薄暗いその部屋に入り、しゃがんで細かな思い出を漁る。僕は、そこから離れて、遠くに行った。
背後からビニールの音が聞こえるたびに、心が軽くなる。どうでもいい思い出が消えていく。自我が薄れて、綺麗になっていく。汚れた僕は、もういない。やがて大きな音も聞こえてくる。いわゆる大事な思い出なのだろう。自己の材料となったもの。心に風が通る感覚までしてくる。恐らく、もう数えるほどしか、残っていない。なんだか、途端に寂しくなってくる。あのときは“全部捨てて欲しい”なんて、言ってしまったが、思い返せば残しておきたい思い出が、水底から這い上がる気泡のように、希望のように、次々と現れる。僕は振り向いた。そして走った。この何もない空間をただ走って、疲れが溜まって今すぐに倒れ込んで寝たくなる。でも、全部を失ってしまった僕は、誰からも愛されない気がして。誰かから愛されたくて、自分を見直して、全部が塵で、全部捨てたくなって。でもそんなものは虚妄だった。捨てたくない、何一つ手放したくない。僕の、僕だけの思い出だ。痛くても、苦しくても惨めでも不恰好でも、なぜだか、認めてやりたい。