誰よりもずっとあなたを愛しているよ。
他の誰もかなわないと思うんだ。
一番近くにいるから、なんでもすぐに気づけるし、悩みがあったら誰よりも適切なアドバイスをしてあげられる。
いつどんなときでもあなたを見守っているんだから、当たり前でしょう?
ねえ、だからこっちを向いてよ。
絶対、今のあなたみたいな泣き顔なんてさせない。いつだって笑っていられるよう、どんなものからもあなたを守れるから。
だから、そんなろくでなしは捨ててしまえ。
そして今すぐこの想いを受け入れて。
ふたりで明るい未来を進んでいこう?
お題:誰よりも、ずっと
※BL表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
彼の瞳を見つめると、水滴が一粒落ちた水面のように揺れたあと、すぐに目線を外してしまう。頬の赤さが、理由だ。
「恋人になっても、恥ずかしがり屋なのは変わらないねぇ」
「人に見つめられるのはそもそも苦手なんですって」
「恋人相手だと特に、ね?」
唇をとがらせてしまった。そういうところがたまらなく可愛いのだが、指摘したら意地でも直そうとするから言わないでおこう。
と、珍しく彼がまっすぐ見上げてきた。眉間がぷるぷるしているさまに吹き出しそうになりつつも、見守ることにする。
ああ、やっぱり彼の瞳には不純物が全くない。いくら観察されても不快にならないどころか、心の奥があたたかくなる。
「……あなたは全然平気ですよね。今のはわざとらしすぎましたけど、いつも全然余裕だし、考えてることも読めないし」
「そんなことないよ? 俺だって恋人に見つめられたら恥ずかしい! ってなるさ。顔に出してないだけで」
彼は納得のいかない表情をしていた。嘘のつけない性格だから、とても自分の言葉が信じられないのだろう。
人間の裏の感情だけでつくられたような場所で生きてきた自分に、彼の存在はとてもまぶしくて、まぶしすぎて、痛く感じることもある。
だからこそ大切で仕方なくて、できれば閉じ込めておきたい。
――もちろん、そんなことをしたら彼らしさが死んでしまうから、なんとか実行には移さないでいられるけれど。
頬を包み込んで、改めて正面から見つめる。ああ、口元がだらしなく緩んでいるかもしれない。彼と付き合うようになって自分もだいぶ変わった。
彼が小さく「ずるい」とつぶやいたのを見逃しはしなかった。
「ずるいってどういうこと?」
「そういう表情が、です」
「俺、そんなに変な顔してた?」
「おれでもわかるくらい……おれが、好きだって顔」
「それは仕方ないよ。だって本当に君がとても大好きで、愛しいんだもの」
呆れた台詞が、互いの唇の奥に消える。
再びの彼の視線からは、羞恥にまみれながらも確かな愛が伝わってきていた。
お題:君の目を見つめると
「それでいい」
一瞬気分が高揚したが、すぐにマイナス側へと下降する。
「ボス、せめてそれ『が』いい、素晴らしいって言ってくれません?」
すると、弱くだが頭をはたかれた。
「ひっど! 暴力反対!」
「お前なぁ、自分の実力見てから意見しろ!」
正論を突きつけるなんてずるい。なぜなら私はチーム唯一の落ちこぼれだから。組むパートナー皆がお手上げポーズを取り、あわよくばクビになりかけたところをボスが救ってくれた。
そう、口答えできる立場ではない。わかっている、わかっているけれど、もう少しモチベをあげてくれてもいいじゃないか!
「でもでも、最初の頃よりかは使えるようになったと思いません? 私、自分でもわかります」
まだボスのサポートが必要なものの、そこそこ難しい案件もこなせるようになってきた。
「アホ、調子に乗るな。俺の教えがいいからに決まってるだろ」
「むー、とことんまでツン対応ですか……まあ、その方が逆に燃えますけども」
なんだかんだ文句を垂れつつ、自分と同じ二十代ながら貫禄十分なボスが恩人なのは変わらない。なんなら尊敬だってしている。
早く一人前になって恩返しするのが、今の目標だ。
「ちゃんと見ててくださいよ! あっという間に優秀になっちゃいますからね」
力こぶを作る仕草とともに宣言してみせる。また調子に乗るな、なんて釘を刺されるかと思ったが、その読みは外れた。
「まあ、あまり焦るな。今のままのペースで、頑張ればいい」
控えめにも、少し悲しげにも見える笑顔を向けて、頭をひと撫でされた。
「ぼ、ボス?」
「よし、休憩終了。仕事一個片付けるぞ」
背中を向けたボスは、もういつもの雰囲気を纏い直していた。
お題:それでいい
※軽くBL表現がありますのでご注意ください。
「いやだ。信じない」
「だから、本当だって」
「わかった、僕をからかってるんだろ。お前、昔から友達となにか企むの好きだったし」
「それは、すまん。でも今のこれは違うぞ」
「やめろよ。だって、ありえない」
「本当だって!」
両肩をつかまれ、逃げ場がなくなる。せめて視線だけでもそらそうとするのに、彼がまっすぐこちらを見つめているのが嫌でも伝わってきて、逆らえなくなる。
――だって、何年、好きでいたと思ってる?
男に興味がないのは明白だった。
学生時代は他の友達の陰に隠れて、とにかく「何人かいる友達のうちのひとり」のポジションの維持に努めた。
仮に親友、なんて関係にでもなったら絶対耐えきれず告白してしまう。そうしたら待つのは関係の消失しかない。赤の他人に戻るのだけは嫌だった。
そう、彼からしたら特別目立つ存在ではなかったはずだ。
なのに、お互い社会人になるこのタイミングで、同窓会の帰りに、告白?
長年封印した、密かな願いが何の脈絡もなしに叶うなんて、物語としてもできすぎている。
「……そうだ。今日って確か、エイプリルフールだった」
ネットで盛り上がっていたのを思い出す。毎年くだらないとどこか呆れて眺めていたけれど、自分が体験する側に回るとは思わなかった。
「そうやって嘘だって思い込もうとしてるってことは、おれのこと嫌いじゃなくて、好きだから?」
肩を掴む力が、少し強まる。
「ち、ちが」
「ああ。エイプリルフールだから、それ、嘘ってことだな」
すぐ目の前に、彼の瞳がある。
唇があたたかい。口の中にもなにか湿った感触が――
「っな、にして!」
思わず突き飛ばしてしまった。もう展開に全然ついていけない。わけがわからない。
「もう一度言う。おれはお前がずっと好きだった」
距離を詰めて、まっすぐにこちらを見つめて、同じ台詞を告げられた。
「お前もおれが好きだよな?」
ばかみたいに前向きでな彼の、勝利を確信した笑みの前に、足掻きはもはや無駄だった。
お題:エイプリルフール
ふと、頭を一度撫でられた。
振り返ると同時に、身体が一回り大きな彼に包まれる。
「どうしたの?」
「ん、充電中」
このところ仕事が忙しかったし、恋人として支えになれるなら本望だ。労るように背中をさする。さらに抱き寄せられて少しびっくりしたけれど、愛おしさももっと増した。
普段から褒めるときや慰めるときなど、頭を撫でてもらう行為は日常茶飯事みたいなものだから、最初は全く気づかなかった。
こうやって甘えてくるときは、必ず一度だけ。
改めて意識してみると、普段と違ってちょっと遠慮がちというか、伺うような素振りがある。
(突然こんなことしてごめん、って思ってるのかもね)
真面目な上に10歳年上だから、しっかりしなくちゃという気持ちが強いのかもしれない。
全然気にしなくていいし、もっと頼ってくれてかまわないのに、と口で伝えるのは簡単だが、きっと彼は頑張ってしまうだろう。
だから、少しずつ少しずつ、自然と寄りかかれるようにしていくんだ。
(あなたは私をとても大事だって言ってくれたけど、私もなんだからね)
お題:何気ないふり