Ayumu

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「それでいい」

 一瞬気分が高揚したが、すぐにマイナス側へと下降する。

「ボス、せめてそれ『が』いい、素晴らしいって言ってくれません?」

 すると、弱くだが頭をはたかれた。

「ひっど! 暴力反対!」
「お前なぁ、自分の実力見てから意見しろ!」

 正論を突きつけるなんてずるい。なぜなら私はチーム唯一の落ちこぼれだから。組むパートナー皆がお手上げポーズを取り、あわよくばクビになりかけたところをボスが救ってくれた。
 そう、口答えできる立場ではない。わかっている、わかっているけれど、もう少しモチベをあげてくれてもいいじゃないか!

「でもでも、最初の頃よりかは使えるようになったと思いません? 私、自分でもわかります」

 まだボスのサポートが必要なものの、そこそこ難しい案件もこなせるようになってきた。

「アホ、調子に乗るな。俺の教えがいいからに決まってるだろ」
「むー、とことんまでツン対応ですか……まあ、その方が逆に燃えますけども」

 なんだかんだ文句を垂れつつ、自分と同じ二十代ながら貫禄十分なボスが恩人なのは変わらない。なんなら尊敬だってしている。
 早く一人前になって恩返しするのが、今の目標だ。

「ちゃんと見ててくださいよ! あっという間に優秀になっちゃいますからね」

 力こぶを作る仕草とともに宣言してみせる。また調子に乗るな、なんて釘を刺されるかと思ったが、その読みは外れた。

「まあ、あまり焦るな。今のままのペースで、頑張ればいい」

 控えめにも、少し悲しげにも見える笑顔を向けて、頭をひと撫でされた。

「ぼ、ボス?」
「よし、休憩終了。仕事一個片付けるぞ」

 背中を向けたボスは、もういつもの雰囲気を纏い直していた。


お題:それでいい

4/4/2023, 4:00:13 PM