Ayumu

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※BL表現がありますので、苦手な方はご注意ください。


 彼の瞳を見つめると、水滴が一粒落ちた水面のように揺れたあと、すぐに目線を外してしまう。頬の赤さが、理由だ。

「恋人になっても、恥ずかしがり屋なのは変わらないねぇ」
「人に見つめられるのはそもそも苦手なんですって」
「恋人相手だと特に、ね?」

 唇をとがらせてしまった。そういうところがたまらなく可愛いのだが、指摘したら意地でも直そうとするから言わないでおこう。
 と、珍しく彼がまっすぐ見上げてきた。眉間がぷるぷるしているさまに吹き出しそうになりつつも、見守ることにする。
 ああ、やっぱり彼の瞳には不純物が全くない。いくら観察されても不快にならないどころか、心の奥があたたかくなる。

「……あなたは全然平気ですよね。今のはわざとらしすぎましたけど、いつも全然余裕だし、考えてることも読めないし」
「そんなことないよ? 俺だって恋人に見つめられたら恥ずかしい! ってなるさ。顔に出してないだけで」

 彼は納得のいかない表情をしていた。嘘のつけない性格だから、とても自分の言葉が信じられないのだろう。
 人間の裏の感情だけでつくられたような場所で生きてきた自分に、彼の存在はとてもまぶしくて、まぶしすぎて、痛く感じることもある。
 だからこそ大切で仕方なくて、できれば閉じ込めておきたい。
 ――もちろん、そんなことをしたら彼らしさが死んでしまうから、なんとか実行には移さないでいられるけれど。
 頬を包み込んで、改めて正面から見つめる。ああ、口元がだらしなく緩んでいるかもしれない。彼と付き合うようになって自分もだいぶ変わった。
 彼が小さく「ずるい」とつぶやいたのを見逃しはしなかった。

「ずるいってどういうこと?」
「そういう表情が、です」
「俺、そんなに変な顔してた?」
「おれでもわかるくらい……おれが、好きだって顔」
「それは仕方ないよ。だって本当に君がとても大好きで、愛しいんだもの」

 呆れた台詞が、互いの唇の奥に消える。
 再びの彼の視線からは、羞恥にまみれながらも確かな愛が伝わってきていた。


お題:君の目を見つめると

4/6/2023, 4:02:12 PM