ぎゅー。
「お、なんだ?」
伝われ、伝われ……!
「まったく、人肌恋しくでもなったのか? お前は昔から寂しがり屋だったもんな」
ぽんぽん、と頭に優しい衝撃が二、三度走ったところで、諦めて離れる。
「……ばか」
なんだよ、とやっぱりなにもわかっていない従兄を置いて、部屋に逃げる。
今日もだめだった。会うたびにああして溢れる気持ちを込めても、彼には一ミリも伝わっていない。
女の色気が足りないの? 妹属性とかいうのがまだまだ強いの? いっそキスでもしてみたら意識だけはしてくれる?
自分をきつく抱きしめる。頭に浮かんだのは戸惑いながら下手な言い訳を続ける従兄の姿しかなかった。
今のままじゃ捨て身の突撃をしたところで未来は変えられない。うまく立ち回ることも、さりげない台詞をつぶやくこともできないから、思いきり抱きしめるの。
いっそ「むしろ気持ちがわかっているから、ああして躱すしかできない」だったらまだ、望みはあるのに。
お題:溢れる気持ち
「これからは私が、姫様をお守りいたします」
片膝をつき、手の甲に軽く口づける。
見上げた先には、初めて見たときから変わらない、慈愛に満ちた笑顔が待っていた。
……本当はこのまま手を引いて、あの薄桃色の唇に勢いよく口づけてしまいたい。口内を優しく撫ぜて、あの双眸が熱で揺れるさまを見たい。
そうなったら、姫様は一体、どんなお声で私を呼んでくださるのだろう。どんな愛の言葉を零してくれるのだろう。
——王族との身分違いの恋なんて、しょせんは空想でしか叶わない。
「ありがとうございます。貴方のこと、頼りにさせていただきますね。よろしくお願いします」
それでも空想で終わらせたくないと知ったら、貴女は告げたその言葉を後悔なさるだろうか?
お題:Kiss
100年先も、1000年先でも、何年先だって
君を愛すると誓えない私は冷酷なのかな
私が愛しているのは「今を共に生きる」君だから
不死身にでもなれる方法があるなら
堂々と君に宣言できるのに
お題:1000年先も
押し花が飾られた額縁をお守りのように持ちながら、玄関の前に立つ。
『十年経っても忘れないでいたら考えてあげるよ』
餞別という言葉と同時に渡された一輪の花。意味もなくそんなプレゼントをする人ではないから、花言葉を調べてみた。
――忘却。つまり、忘れなさいということ。
頭に来た。私がどれだけ好きか全然わかってない。あなたが危惧しているだろうことはとっくに自らの中で解消済みなんだ。
その日のうちに、答えの意味も込めてある花の種を送ってやった。
育てていなくても枯らしてしまっても構わなかった。私と同じように花言葉の意味を調べてほしかっただけ。
「……本当に、来るとは思わなかったよ」
あの頃より少し皺が増えていた。それでも想いは変わらない。見た目なんて関係ない、この人のすべてを私は好きになったのだから。
「こんなの警告にもならないよ」
あの頃一旦飲み込んだ返事を、額縁を掲げながら告げる。視線は逸らさず真っ直ぐに、射貫く。
わずかに目を見開いた彼は、小さく笑って左右に一度ずつ、首を振った。
「勿忘草の種送ってくるくらいだもんな。敵わないよ、ほんと」
「私はとっくに本気だったよ。ここに来ることだって見えてた」
「思い知ったよ。……俺の、本当の気持ちも」
頭を撫でる手つきは優しいだけではなく、確かな愛おしさも混じっていた。
高鳴る心臓を手のひらで抑えながら、彼の後をついていく。
「結局、俺次第だったってことだ」
窓辺に置かれた鉢植えを見て、長く想い人だった彼にたまらず抱きついた。
お題:勿忘草(わすれなぐさ)
気持ちがずっと、同じところを往復している。
前に進もうと意気込めばやっぱり怖じ気づいて、でもこんなんじゃダメだと奮起して、また尻込みしてしまう。まるで永遠に、ブランコに揺られているみたい。
いっそ、思いきって飛んでみようか。
——手が離れない。足がすくむ。
昔は恐れず、一番遠くを目指して何度も何度も飛んでいたのに。大人になって知恵がついて、無駄な未来を選ばないようになってしまった。
目指すべき着地点が見えない。
わたしは今、どうしたいのだろう。
お題:ブランコ