押し花が飾られた額縁をお守りのように持ちながら、玄関の前に立つ。
『十年経っても忘れないでいたら考えてあげるよ』
餞別という言葉と同時に渡された一輪の花。意味もなくそんなプレゼントをする人ではないから、花言葉を調べてみた。
――忘却。つまり、忘れなさいということ。
頭に来た。私がどれだけ好きか全然わかってない。あなたが危惧しているだろうことはとっくに自らの中で解消済みなんだ。
その日のうちに、答えの意味も込めてある花の種を送ってやった。
育てていなくても枯らしてしまっても構わなかった。私と同じように花言葉の意味を調べてほしかっただけ。
「……本当に、来るとは思わなかったよ」
あの頃より少し皺が増えていた。それでも想いは変わらない。見た目なんて関係ない、この人のすべてを私は好きになったのだから。
「こんなの警告にもならないよ」
あの頃一旦飲み込んだ返事を、額縁を掲げながら告げる。視線は逸らさず真っ直ぐに、射貫く。
わずかに目を見開いた彼は、小さく笑って左右に一度ずつ、首を振った。
「勿忘草の種送ってくるくらいだもんな。敵わないよ、ほんと」
「私はとっくに本気だったよ。ここに来ることだって見えてた」
「思い知ったよ。……俺の、本当の気持ちも」
頭を撫でる手つきは優しいだけではなく、確かな愛おしさも混じっていた。
高鳴る心臓を手のひらで抑えながら、彼の後をついていく。
「結局、俺次第だったってことだ」
窓辺に置かれた鉢植えを見て、長く想い人だった彼にたまらず抱きついた。
お題:勿忘草(わすれなぐさ)
2/3/2023, 3:24:46 AM