白い吐息
12/8
雪が降り始め、温度が急激に下がった日
白い吐息と彼女の手を掴もうと必死な私の手
だだの小さな喧嘩だった。
小さな喧嘩がどんどん大きくなって、
彼女は家を出ていってしまった。
それを追いかけるように走るわたし。
彼女は一向に止まる気配がない。
彼女の手を掴もうと必死な私の手と、
私たち二人の白い吐息。
私は最後まで彼女の手を掴めなかった。
凍てつく星空
ヒラリ、ヒラリと舞い遊ぶように飛んでいるアゲハ蝶。
そして大きな月の下で冷たくなっている君。
「行ってらっしゃい。気おつけてね。」
そう言って彼を送り出した。
友人の元へ行くのだと楽しそうに話していたのを20年経った今でも覚えている。
その2時間後に彼は冷たくなって帰ってきた。
飲酒運転をしていた車に跳ねられたそう。
なんて酷い話なのだろう。
この日から私の世界が表情を変えた。
笑顔を悲しみも喜びも無くなってしまったんだ。
20年経った今、彼に夢で逢った。
それだけで良かったんだ。心が満たされて、
私の世界に少し表情が戻ってきた気がするから。
私はわがままだ。
''また彼に愛されたいと思ってしまったよ''
𝐹𝑖𝑛.
ポルノグラフィティ アゲハ蝶
君と紡ぐ物語
「アハハっ笑」
空のビール缶が2つ、新しい缶が5つ。
彼は自分の欲求のために僕を求めて、
僕は僕のせいで亡くなった元恋人の換えとして、
彼を求めている。
大きな一軒家。その家の合鍵。
鍵を回さなくても開くドアに小さなため息をもらす。
何も無いリビングに、下に続く螺旋階段。
螺旋階段を降りていくと、少し丸まっている背中を壁にくっ付けて真剣な顔でギターをいじっている男。
防音効果が高いこの地下で一生懸命に楽器をいじる男と、ドラムにバイオリンに太鼓。
''天才'' の塊な男。
高校2年の春。
僕がエレキギターを始めた歳。
毎日、毎日、放課後の誰もいない教室でエレキギターを強く握りながらぼーっとしていた年。
1つの花瓶が置かれた机。毎日変えられていた花はもう無く、残り水だけの花瓶。みんな最初は悲しくて毎日花をさしていたが、次第にみんな最初から無かったかのように花は刺されることのない花瓶が一つ置いてある。
そこに毎日座りながらエレキギターを握る。
僕はエレキギターなんてわかんないし、種類も弾き方も、楽譜の読み方も分からない。
でも元恋人が唯一残してくれた遺物。
元恋人が弾く所はずっと見てきた。楽しそうに弾くところも全部が大好きで、音楽と恋人が更に好きになった。
そんな大好きな恋人とちっちゃな喧嘩をした。
寒くなってきた11月。
次のライブがあるとかでバイトをして、それ以外はスタジオに籠る恋人。
最初は何も思わなかった。高校も別々の高校を選んで、全然会えてなかったし、別に恋人が好きでやっていることを否定とか、したい訳じゃ無かった。でも心が違和感を抱き続けていた。今思えばただの嫉妬だったのかもしれない。恋人にあった時にその嫉妬心が爆発してしまった。そこからはすれ違いの連発。
「俺は音楽も好きだけどお前も好きだ。」
と真剣に言ってくれた恋人。
でも信じられなくて「音楽か僕がどっちかにしてよ、僕が好きなら音楽やめてよ?!」と意味わかんない思考をぶつけながら喧嘩が長引いていく。
「あぁいいさ、音楽やめていい。それくらいの覚悟があるくらい好きだ。」
と言う言葉を信じられずに、「あっそ、そんな覚悟ないくせに、そこまでできるんだったら僕の為に死ねるよね?」と絶対に言ってはいけないことを言ってしまった。嘘だと言いたいけど僕のプライドがそれを阻止した。そして大好きな恋人を押しのけてその場を後にする。あの時の彼の悲しそうな顔を今でも覚えている。
これがいけなかったんだ。
あんな軽く死ねるのかなんて言ったから。
3日後彼は自宅で首を吊って亡くなった。
綺麗に収納されたエレキギター。
彼の年齢では飲める所まで達して居ないのに飲みかけのビール缶。
冷えきった彼の身体。
''それが僕と元恋人を狂わせた鍵だった''
高校3年の夏。
2年まであった彼の机は3年に上がると元々無かったかのように教室から消えていた。
ぼーっとする場所が亡くなった僕はフラフラと歩きながら音楽室を開ける。
彼の形見のエレキギターを背負いながら。
その2日後、音楽室が開いていた。
誰か居るのかと思い、こっそり中に入る。
そこにはエレキギターを抱えながら眠る彼の姿。
美しい顔立ちをしていて、見惚れていると、
夢から覚めた彼と目があった。
「こんにちは。」と気弱そうな声。
彼が僕をジロジロと頭の先からつま先まで見ている。
「ね、ねそれエレキギターでしょ?弾けるの?」
と、初対面なのに軽いタメ口の彼。
「いや、弾けないけど」「あっ弾けないんだ」
と驚き顔の彼。少しイラッときた。
そこから毎日音楽室に彼が居るようになった。
結構話すようになって楽しさに溺れていた時、
「ねぇ君さ、何かに呪われてでもしてんの?」
と意味不明な爆弾を落とす彼。
「そのエレキギター古いヤツだよね。君がそれを自主的に買うとは思えないし、前から話してて気づいたんだけどそれ元恋人とかそこら辺のでしょ」と名探偵のような推理を言ってくる彼。
「うん、あってるよ。君が想像する通り、元恋人の」
ふーんと自分から言ったくせに興味無さそうな彼。
「まぁ俺のせいで亡くなったんだけどね」とぶった斬ると「えっ何重っ」と逆にぶった斬られる始末。
「うん。形見なんだ。僕が僕の為に死ねるのとか聞いたらほんとに亡くなっちゃってさ、本当に馬鹿なヤツだったよ。」と長々話すと、''悲しそうな顔''と頬を掴まれた。
''じゃあさ、僕でそのかけた部分を満たさない?''
そこからが始まり、彼は僕を求めて、僕は彼を求めて、2人の心の掛けた部分を埋めあった。
それが1番いい心の癒し方だと思ったから。
僕と彼だけ空間の世界。
そして、これは僕と彼が一緒幸せになれない物語だ。
𝐹𝑖𝑛.
冬へ
「新潟県の4人が死亡。無理心中の可能性あり。」
幼い私にはとても理解が出来なかった。
幼稚園の頃、突然親友が来なくなった。
先生はみんなを教室に集めて、真剣な顔で話してくれた
「唯音ちゃんはね、今綺麗なお空にいるんだよ」と、
泣きながらそう話してくれた。
そこから一人で遊ぶ日々。退屈で仕方ない日々。
そこから12年。ある程度大人になった私は、人間関係の辛さで鬱病と診断されていた。
毎日テレビを見て、寝て、起きてを繰り返す日々。
テレビで「新潟県の無理心中事件から12年が経ちました。そして3人の子供の命を奪った事件です。忘れないように心に刻んで置いてください」と真剣なアナウンサー。あの頃から何も変わらない私と変われないあの子。どちらもずっと一緒の道筋。
「新潟県のアパートで火災発生。女性一人死亡。」
これからは私も変われない側
心の迷路
「お久しぶりです。元気に過ごされている事と思います。いまはもうすっかり桜が満開ですね。今も貴方と桜を見たかったです。3年前、突然出て行ってしまってごめんなさい。私はもうこの先長くありません。5年前に余命宣告されていました。黙っていた事を申し訳なく思っていました。だから後、2年、それよりもっと短いかもしれない。この手紙を書いている時も手が震えています。私の手には点滴が刺さっていて、痩せ細った身体に、細くなった手には貴方から貰った指輪も緩くなりました。この3年間で色々な場所に行きました。有名な神社も、昔に貴方と行った場所も大切な思い出が詰まっている場所も、全部まわれちゃいました。貴方といる時間が今でも大切な思い出です。楽しかったです。私の分まで長生きしてください。」
それは3年前に同棲していた家を出て行った元恋人からの手紙だった。「ごめんなさい」と小さなメモに弱った字で書かれたメモと彼女の私物が全て無い
空っぽの家だけだった。
悲しいよりも先に君らしいと思ってしまった。
「ほんとに君は手紙が大好きだね。やっぱり君らしい。もう桜なんて咲いてないよ。君と一緒に見たかったな。君とはもう見れないかな、。」
手紙の所々にある涙の跡をなぞって、力強く握る。
そしてその涙の跡に数滴の水が落ちてきた。