心の迷路
「お久しぶりです。元気に過ごされている事と思います。いまはもうすっかり桜が満開ですね。今も貴方と桜を見たかったです。3年前、突然出て行ってしまってごめんなさい。私はもうこの先長くありません。5年前に余命宣告されていました。黙っていた事を申し訳なく思っていました。だから後、2年、それよりもっと短いかもしれない。この手紙を書いている時も手が震えています。私の手には点滴が刺さっていて、痩せ細った身体に、細くなった手には貴方から貰った指輪も緩くなりました。この3年間で色々な場所に行きました。有名な神社も、昔に貴方と行った場所も大切な思い出が詰まっている場所も、全部まわれちゃいました。貴方といる時間が今でも大切な思い出です。楽しかったです。私の分まで長生きしてください。」
それは3年前に同棲していた家を出て行った元恋人からの手紙だった。「ごめんなさい」と小さなメモに弱った字で書かれたメモと彼女の私物が全て無い
空っぽの家だけだった。
悲しいよりも先に君らしいと思ってしまった。
「ほんとに君は手紙が大好きだね。やっぱり君らしい。もう桜なんて咲いてないよ。君と一緒に見たかったな。君とはもう見れないかな、。」
手紙の所々にある涙の跡をなぞって、力強く握る。
そしてその涙の跡に数滴の水が落ちてきた。
11/12/2025, 3:51:17 PM