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1/28/2024, 3:47:10 PM

お題:街へ

《春》

とっとっと
今日も街を歩く
ツンと冷たい風を浴びながら芽を出した蕾が
春の気配を告げる
以前として居座る冬の寒気に
何重にも着膨れて
寒さに負けじと春の訪れを待っている

たったった
春の風が花を乗せてやってきた
蕾はようやく訪れた春の陽だまりに歓喜している
何重にも羽織っていた上着を、脱ぎ捨ててしまった
意気揚々と咲いた花で飾られた木々の下を歩く
街は、これから入学するであろう新入生でごった返していた

ああ、春が来たのだ

出会いと別れの季節
1番好きで、1番嫌いな季節
美しく咲き誇る花が好きだ
しかし、物事にはいつか終わりが訪れる
花が散ってしまうように
友達と過ごしてきた大事な時間が終わってしまう
春の風とともに散っていく花びらを
暖かな思い出と、痛む胸を抱えて
ぼんやりと見上げていた


《夏》

とっとっと
今日も街を歩く
咲き誇る花に彩られていた木々は
濃淡を変え、緑に染まっていた
新緑が芽吹くこのごろ
街は生命に満ち溢れている
冬は見る影もない

しとしとしと
レインコートを羽織り、街を歩く
街は色とりどりの水玉で彩られる
雨の日は土や草の匂いが一段と強くなる
重苦しい雲が消えれば
そこには突き抜けた青空が広がっている
雨の日の特別たる所以だ

みんみんみん
照りつける日差しの中、街を歩く
生命が最も逞しく光輝く季節
張り付く湿り気がちょっと気持ち悪い

ふと店の前を通ると、かき氷の旗
真っ白な雪を染め上げたシロップ
何の憂いもなくひとつの色に染まるそれが
少しだけ羨ましい
からんころん、とガラス玉
ラムネ瓶に閉じ込められた透明は
黒く染まった心を吸い込んでくれるようで
いつまでも、いつまでも眺めている

夜風が吹き抜ける夕暮れ
遊び疲れてお別れの時間
だからだろうか
言いようのない物悲しさに襲われるのは

それでも夜はやってくる
今日は祭りの夜
人で賑わい、明かりの灯った屋台を巡る
花火が、夏の終わりを告げる
終わったことを認めたくなくて
静寂に包まれた空を見上げて
なんとなく、じっと立ち尽くしていた


《秋》

じりじりじり
夏は終わったはずなのに
暑さは去ってはくれなくて
それでも夏は終わっていて
その事実を、始まった学校と差し迫る運動会が突きつける

とっとっと
今日も街を歩く
いつの間にか肌寒い秋風が吹くようになっていて
悴んだ葉っぱたちはすっかり真っ赤だ
生き物たちは、冬に向けててんてこ舞いだ
夜な夜な静けさを増していく合唱は
命の灯火がひとつ、またひとつと消えていくようで
残酷にも躙り寄ってくる冬を思わせる

たったった
何処かの国では先祖の霊が帰ってくる時期だ
悪霊を追い払うために作られた慣習
そんな意味はとうの昔に忘れ去られた
街は飾り付けられ、仮装の準備に勤しむ
まさに良いとこどりもいいところだ
そんな私も、祭り気分を味わいたくて
新作ケーキを買いに街へ繰り出している

真っ赤な葉っぱはどこかへ消えた
あまりの寒さに逃げ出してしまったらしい
月を見上げる、今日は満月だ
すっかり細くなってしまった虫の声に耳を傾ける
消えゆく命とは対照的に
月は爛々と輝いていた
まるで、命を吸い上げているかのように
秋の終わりは命の終わり
冬はもうすぐそこだ


《冬》

とっとっと
今日も街を歩く
街一面を彩っていた草木は色をなくし
生き物たちは、静かに眠っている
冷たい風がツンと肌を刺す
地上はすっかり静寂に包まれた
対して、冬の星空は光り輝いている

たったった
再び街が彩られていく
サンタさんがやってくる
街を歩けばツリーにイルミネーション
店に入ればクリスマスソング
不思議と気分が高揚し、足が軽くなる
街が幸せの魔法にかかる

とったったった
クリスマスが過ぎれば年末年始だ
一年を振り返り、年明けを祝う
一月は行く、二月は逃げる、三月は去る
慌ただしく冬を駆け抜けて
いつの間にやら春の気配
だのに、やたらと長いと感じる冬

冬が長いと感じるのは
きっと命の眠った静寂に耐えられないから
夜空にきらきらと輝く星々は
からからころころ高らかに歌う
楽しげなそれは
静かな地上への、空からの贈り物


街は色を変え、匂いを変え、音を変え
毎日のように景色を変える
同じ日など、1日たりともない
移ろいゆく景色を見て
心を揺り動かされる瞬間が好きだ

時には苦しいような
胸が痛くなるような感情を覚える
それでも、ひとつひとつの感情を、感覚を
尊いものだと思える

だから、今日も街を歩く

1/28/2024, 12:49:04 AM

お題:優しさ
※ほぼ愚痴
※編集中

『国語ノート』 
    
             20XX年 ◯月△日(金)

テーマ
優しさについて考える

問1.あなたが正しいと思う優しさとは何か、述べなさい。

困っている人を助けること
誰かを笑顔にすること
大切な誰かを守ること
不快な思いをさせないこと
これらは、正しい優しさに分類されるのだろう
この世界の秩序は、正しい優しさで成り立っている

それでは、何を持ってして正しい優しさとされるのか

世界から見た正しい優しさとは、自己犠牲なのだろう
後世に語り継がれ、称賛されるかの偉大な英雄も
身を挺してあの子を守るかの映画の主人公も
命をも投げ打つ姿を、群衆は讃える
しかし、多くの人は決して真似しようとはしない
称賛し、尊敬しておいてだ
正しいことであるにもかかわらず、だ

では、人から見た正しい優しさはどうだろうか?
それは、保身のための優しさだ
集団の秩序は、ちょっとだけの譲歩の積み重ね
優しい人ほど、たくさんの人間に好まれやすい
すると、誰かに攻撃されるリスクが減る
諍いを起こす可能性が、低くなるのだ

しかし、ただ優しいだけでは、逆効果だ
そこで、人は優しさを向ける対象を選ぶ
優しさの量まで、細かく調節する
このように、自分へ不利益が降りかからぬよう振る舞うことが、正しいものとされる
そして、自らの身を守れなかった者に対して、人々は口々にこう言うのだ
騙される方が悪い、と

これらを踏まえて、正しい優しさとは、
世界から見た優しさと個人から見た優しさの両立であると考えた
つまり、自己犠牲と保身を同時に行うということだ
取り戻せる程度の不利益をあえて被り、パフォーマンスとして示すことで、信頼を得ることではないだろうか


問2.優しさはなぜ必要なのか、考えを述べなさい。

優しさとは鎧だ
優しさの殻の奥底に自分を押し込めて
あらゆる悪意や正義から自分を守る
優しさとは、身を守るために必要なのだ

優しさとは武器だ
一方的に押し付けた優しさは
時に相手の弱みになる
時に誰かの心を傷つける
優しさとは、時に優位に立つ為に必要なのだ

人とは優しさを求める生き物だ
優しさの受け渡しは
行われることが当たり前なのだ
優しさを与えることのできぬ人間は、淘汰される
優しさとは、人から求められ、自分も求めているから
必要なのだ


問3.あなたにとって優しい人にとはどのような人物か、考えを述べなさい

私にとって優しい人とはどのような人物か
それは、優しくする方法を知っている人物だ

明るくて素直なあの人はもちろん
ぶっきらぼうで無口なあの人も
ちょっぴり嫌味なあの人も
優しさを与える方法を知っている
優しさを返す方法を知っている

例えその優しさが虚像だとしても
人から愛される術を心得ているのだ
集団の秩序を保つ術を心得ているのだ

たとえ過ちを犯したとて、それは多面的な性質を持つ人間の一側面でしかない
優しさを知っているのはきっと
誰かから優しさを受け取ったから
優しくする術を一度でも見たことがあるから
人を愛す方法をどこかで教えてもらったから
どんな形であれ、ほとんどの人は優しい人なのだろう

優しい人の中には、優しさを与える方法を教えられずに、自ら作り上げてきた人もいるのだろう
自分の身を守るため
だれかに愛されるため

そんな彼らの幸福を願う
いつか、優しさを与えてくれる人に出会えること
いつか、優しさを教えてくれる人に出会えること
いつか、優しい彼らの本質ごと理解してくれる人に出会えること
そして、心から身近な誰かを愛せる日が来ること


問4.あなたは優しい人でありたいですか?はい、か、いいえ、で答えなさい。

はい








裏面の余白

優しいねと、よく言われる
言われるたびに、胸が痛くなる
違う、違うのだ
あなたに見せている姿は
私の生み出した虚像でしかない

私はどこまでも臆病な人間だった
怒られるのが怖くて優しい子であり続けた
嫌われるのが怖くて好かれようとした
大人や友達に突き放されることを最も恐れていた
兎にも角にも、傷つきたくなかったのだ

私の優しさの正体は、底の見えぬ恐怖感
優しさを纏うことで、身を守ろうとした
なんとも身勝手な人間だ

傷つく心など疾うにないというのに
今日も優しい私を映し続ける
なぜなのかはもはや分からない

ひとつだけ、虚像の中に本当が混じっている
優しくありたい理由が、もうひとつだけある
人の笑顔を見ると、心がポカポカと暖かくなるのだ
きっと、誰かを笑顔にすることが好きなのだろう
嘘と恐怖で塗り固められた優しさだけれども
これだけは本当なのだと信じている


1/25/2024, 1:02:50 PM

お題:安心と不安

私は人より頭が悪い
私は人より物を知らない
私は人よりも運動ができなくて
人よりもずっと鈍感だ

何故馬鹿であると揶揄されるのか
何故皆は世間をよく知っているのか
何故走り方から遊び方まで決められているのか
何故目の前のあなたは怒っているのか

知らないから考えた
たくさん考えた
馬鹿な私でも
少しでも人に近づけるように
ずっと考え続けた

どうすれば普通になれる?

考えている間は安心できる
心を蝕む苦痛が、幾分か和らぐのだ
考えれば考えるほど
普通へ近づけているように思えた

変わらず頭は悪いのだろう
それでも、雑談ができるようになった
体育は、考えても変わらずできなかったけれど
優しい人だと言われるようになった

ある時ふと、思うままに行動してみた
考えなしに生み出された行動の数々は
ほぼ全てが悪い方向へ働いた

今日も限界まで思考を巡らせる
その果てに、自分の出せる最善択を導き出す
そうして初めて普通になれる
心のままに行動することには、強い不安を感じる
私の本質は何も知らぬ劣等生のまま、変わっていないのだから

1/24/2024, 3:50:10 AM

お題:こんな夢を見た

夢見心地から現実へまどろみ落ちていく

大切な友達と一緒に
朝会ったら笑顔の挨拶をして
昼は取り留めもない話をしながら弁当を広げて
帰り道は駅までみんなで歩いて帰る
そんな取り留めもない日常
心から笑って
心から泣いて
道端に溢れている不思議には気づけもしない
それくらい幸せな日常
辛くて苦しくて張り裂けそうだ
それでも確かに生きている
私は生きているんだ!
他人事なんかじゃない
確かに生きているんだ!

そんな夢を見た

残酷な現実へ引き戻される
世界から切り離されたような
霧の中をひとり彷徨うような空虚な心地
見えているもの全てが
自分の感情でさえも他人事
底の見えぬ虚無を悟られぬよう
笑顔を張り付けやさしい虚像を映し続ける
悪夢のような現実がやってくる



1/20/2024, 12:38:53 PM

海の底

しんしんと、雪が積もる。
何も聞こえない。
空を見上げれば、いつまでも夜。
ただ僅かな光が捉えられるのみである。

ここは生命の終着点。
役割を終えた亡骸たちの行き着く先。
無数の命が眠りにつき、目覚める時を今か今かと待っている。

海の底には、未知が眠っている。
奇々怪々な生き物の数々。
太古の星を語る鉱物たち。
大昔に沈んだ誰かの宝物。
ここには、世界中の秘密が流れ着く。

心地よい静寂の世界は、役目を終えて眠りについた命の揺籠である。
未知の溢れるこの場所は、世界中の秘密が集まって形作った別世界だ。

いつか誰かに暴かれるその日が来ないよう
底も見えぬ深い暗闇に
何も聞こえぬ静寂の中に
世界中の秘密と眠りについた命を守っている


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