お題:何もいらない
心から湧き出た旋律
僕たちの原動力だ
この喉で音色を奏でる
心に誘われるまま動く身体
きっとあれが感情なのだろう
どうして、こんなに静かなんだろう
みんなの心の音色
君の心は何色?
色とりどりな君の心
鮮やかに変わっていく色を眺める
ああ、綺麗だな
僕の音色は見えないや
誰もがいつかは自分だけの音色を見つける
自分だけの旋律を奏でるようになる
将来の夢、人生設計
それぞれの生き方を見つけて進んでいく
旋律の奏で方も知らない
音色も見えない僕はどうすりゃいいんだよ
何者になるのかが当たり前
必死に自分だけの旋律を探す世界
別に何にもならなくなって、いいじゃないか
僕の音色は見えないけれど
僕は白くありたい
何にも染まらずに
色鮮やかな人の営みの中で
美しいこの世界を
ただ淡々と眺めていたい
感情なんて探すのはやめた
人の感情の真似っこもやめた
僕には必要ないから
美しいこの世界を
眺め生きてることが最高の幸せなんだ
感情なんてなくたっていい
ただ人の中で生きられるのなら
それ以上はなにも望まないよ
お題:特別な存在
私がほしいもの
それは、友達
ただそれだけだ
たまに思い出したように連絡を取って
たまに思い出したかのように会って
ゆるゆると、細く永く付き合っていく
けれども互いを大事に思い合える
そんな特別な存在を、友達と呼んでいる
過剰な干渉も、執着も、恋情も、損得勘定も不要だ
各々の人生は各々のものでしかない
必死に生きていく長い人生の中で
ほんの少しだけの憩いの時間を共有する
そして再び各々の人生へと身を投じる
再び休息を共にしたくなるその時まで
たまに会ってする話の内容など
他愛もないくだらないものだ
しかし、そんな時間がこの上なく尊いのだ
そのような尊い時間を共に過ごせる友にひとり出会えたら、それは人生最高の幸せなのだろう
お題:同情
雨の中、立ち尽くす君がいた
寒そうに肩を震わせている
傘を持って隣を歩く
雨宿りに入った喫茶店
黙って口をつけたココア
ぽつり、ぽつり
君が溢した不安
それでいい、それでいいんだ
じくり、じくり
露わになった友の傷
私にも背負わせておくれ
テーブル越しの君の独白
ぬるくなったココア
じわり、じわり
きつく締め付けられた胸
痛いね、苦しいね
じくり、じくり
君の傷は治せないけれども
痛みが軽くなるまで一緒にいるよ
君を癒す言葉を、望むままに贈ろう
君が望むなら何度でも寄り添おう
雲間から光が降り注いでいる
君の顔は幾分か晴れやかだ
ココアはもう飲み干してしまったようだ
躊躇う君の背中を押す
君は「またね」と告げて外へ駆け出した
君を見送りながら、冷めたココアに口をつける
いつか君も大人になって、独り立ちするのだろう
その時には私の事など、覚えてもいないのだろうね
それまでは君の拠り所となろう
少しでも長く友達でいたい
少しでも長く一緒にいたい
そんな身勝手な願いを込めた優しさに
どうか気づかないで
お題:スマイル
褒められたのが嬉しくて笑った
意地悪されたので怒った
喧嘩を見ていると悲しくなった
誰かと遊ぶのが楽しくて笑った
心から笑い、心から泣く素直な子どもだった
少し大きくなった
泣いたり怒ったりすると、周りは困るらしい
あなたに笑いかけると、笑顔が返ってきた
なるほど、笑顔には相手を安心させる効果があるのか
それからは、気がつけば何もなくてもよく笑うようになっていた
それからもう少し大きくなった私は気がついた
大人はよく暗い顔をする
笑いながら話を聞いてみる
先の見えぬ未来や日々の不満
そんな話を聞いていると、固かった表情は柔らかくなっていて
笑顔で「ありがとう」と返ってくる
なるほど、笑顔には人の不安を解消する力があるのか
それからもっと大きくなって
私は笑顔が外せなくなった
私が前向きでいると、あなたは笑った
私が真面目でいるとらあなたはホッとしていた
ポロッと吐いた弱音は
誰かの言葉に掻き消された
あなたの理想の私以外は許されないのだ
しかし、それで笑ってくれるなら
泣いてる縋ろうとする私を刺し殺した
それから少し時が経って
私は笑顔の仮面を被り続けた
苦しくて痛くて、気づけば心は泣き叫んでいた
死にたいと言う思いが込み上げてくる
なぜ?訳がわからない
大人なら助けてくれるかもしれない
私はほんの僅かな希望を込めて伝えた
「死にたい」
助けてなどくれなかった
世の中には生きたいのに生きられない人がたくさんいる、そう言った
そんなことは知っている
何を伝えたいのかも、知っている
私の死にたいという思いは我儘でしかない
本来この思いは早急に消すべきなのだ
笑って返した
「そうだね、ごめんね」
周りを困らせてしまった、なんとかせねばならない
心の中に渦巻く苦痛を取り除くにはどうするべきか?
簡単だ、苦痛を感じなくすればよい
つまり、苦痛がわからなくなればいいのだ
悲しむ私を刺し殺した
怒り狂う私を沈め殺した
不安がる私を締め殺した
助けを求める私を突き落とした
希望と幸福、喜楽以外の感情は必要ない
いつの間にやら
心にぽっかり穴が空いて
苦痛だけが心を蝕む
私が音を立てて崩れ落ち、何者でもなくなっていく
そんな形をなさなくなった心を、笑顔の下に隠す
笑顔以外を浮かべることは許されない
ああ、なんて醜い笑顔だろうか
お題:どこにも書けないこと
①
長い間、妙な違和感とと共に生きてきた
見えてるもの、聞こえているもの、感じるもの
すべてが膜一枚隔てた、夢の中のような感覚
気がつけばそこにあった空白
みんながみんな持っている感覚なのだ
そう信じてきた
なんとなく、大人には言えなかった
言ったところで信じてもらえるはずがない
きっと大人たちが言うところの、子どもの空想なのだ
そう、心の片隅で思っていた
そんな不信感を心の奥底に押し込めて
記憶の端へ追いやった
けれども夢見心地からは醒められなくて
空想に囚われたまま大人になってしまった
けれども、この夢から醒めたいとは思わない
世界の全ても、自分の感覚ですらどこか他人事で
自分の感情の変化、毎日少しずつ違う世界
そんな移ろいを眺める日常が、好きなのだ
②
正しい評価とはなんだろう
私は、どんな人なのだろう?
周囲は、過剰に持ち上げるか貶すしかしない
私情をできる限り排除した、率直な評価が欲しかった
ずっと、それが不満だった
私以外から見た私を知りたかった
せめて家族だけでもちゃんと私を見て欲しかった
率直に現実を教えて欲しかった
けれども、伝えたところで帰ってくる答えは同じだ
「そう思ったから言ってるんだよ」
ああ、優しさとは残酷だ