空は、海は、世界は、こんなにも広いのに
屋上で手を広げて、きみに笑いかけた
何をしても笑わなくなったきみは、
いつもと違ってカラッとした顔をしてた
ふと、きみは立ちあがってフェンスに手をかける
バカで、なにも考えてないわたしは
もう大丈夫かもって、また一緒に色んなとこに行けるって本気で思ってた
けたたましい電話の呼び鈴、母のおおきな声
起きるにはまだ早い時間で、
モゾモゾと布団にもぐりこむと、
バタバタと階段を駆け上がって、ドアを勢いよく開けた母
暢気なわたしを起こして、車に乗せる
着いたのは、きみの家で
家の前で、きみのお母さんは右往左往していた
きみは昨日別れたあと、どこに行ってしまったの?
帰ってこないって、お母さん、心配してたよ
きみから1件のメッセージ
藁にも縋る思いで開いて、
謝りたくなった
わたしはなんにも分かってなかった、分かってあげられなかった
ちっぽけなわけないのに
わたしの尺度で、きみの気持ちを測って
決めつけて
手が届かなくなってやっと気付くなんて、
本当にわたしは、どうしようもないバカなんだ
キッカケは下らないことだった
私が気に食わなかったんでしょ
無視
暴言
暴力
どんどんエスカレートしていって
曇った顔をしてた奴らも
あんたと同じようにニタニタ笑って
何度飛び降りようと思ったか
何度あんたの首を折りたいと思ったか
知らなかったよね
私も笑ってたから
イジりの延長だと思って
自分のほうが上だって
誤解させちゃった
これが最後
あんたと私にはお似合いだよね
大丈夫
一緒に地獄に堕ちてやるからさ
だからみっともなく泣くなよ
気持ち悪い
あなたはずっと、私にとって雲の上の存在で
憧れて、あなたのようになれたらとどれほど思ったことでしょう
手を伸ばして、あなたに触れたくて
でもきっと、あなたに触れることは私なんかにできない
そう思いつつも、あのとき見たあなたが焼きついて離れなくて
ここまで生きてきました
あなたは大袈裟だと言うでしょうが
私は、あなたの枷になりたかった
あなたの生きる意味になりたかった
あのとき、私の思いを伝えられていたら
あなたはもっと、歳を重ねることができたでしょうか
未だ、天で待ってくださっているのなら
改めて、面と向かってあなたを呼びたいのです
わたしの親友は、天才だ
小さい頃から歌でも絵でもとにかく何でも
やったらすぐに上達して、周りを追い越して一番になる
私は、きっといわゆる凡人で
何をやってみても、それなり
上達できても、周りは追い越せない
親友のことは好き
でも、自分には何もないんだなって
私のほうが先に始めてたのに
とか、悪い方にどんどん考えて
突き放したこともあった
棚の隅にすぐに見えないように
スケッチブックが何冊もあった
パラパラと目を通せば、
決して上手くはないけれど、
楽しそうな絵がたくさん
たくさんあった
見漁っていくと、
スケッチブックは中学の頃で終わっていた
残り数ページはまっさらで
机にあるペンが目についた
また、描いても良いのだろうか?
ずっと流させれるままに生きてきた
楽な方に楽な方に
生温い風が僕の頬をなでる
今は春だったか
季節の感覚もあやふやで
暗闇の中犬が僕をじっと見つめていた
「来て?」
そう言って手を伸ばす
いつもの様に笑えているだろうか
犬は戸惑うことなく恍惚とした表情で僕の手を取った
君はずっと ただ僕を見つめていたね
墜ちていくなか
撫でつける風と身体が溶け合うように感じながら
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