いつもより早くの下校。
早く帰りたい気持ちと、まだあなたといたい気持ち。
大きな気持ちはもちろん後者で。
茹だるような暑さのなか、自転車をカラカラと押す。
コンビニで涼もうと、あなたは言う。
わたしはグレープ。あなたはソーダ。
目をキラキラと輝かせ、美味しそうに頬張るあなた。
わたしが選んだのは、コロコロしたのが数個入っているものだったから、
おすそ分けする。
嬉しそうなあなた。
ふと、目の前にアイスキャンディー。
おすそ分け!
カラリと笑うあなた。
一気に頬が熱くなったのは、夏のせいではない。
今もずっと、考えているんです。
こうやって泣いているわたしを、あなたが颯爽と現れて、
何処か遠い場所へ連れ出してくれないかって。
わたしがあなたを愛している様に、あなたも、わたしを、って
ありもしない可能性を何時までも求めて。
あなたにも、わたしにも家庭があるのに。
わたしは身重になってしまって、益々死ねなくなってしまった。
わたしが誰よりも、何よりもいちばんあなたを愛しているのに。
あの女と、あなたのお父上がバカみたいに駆け落ちしようとしたばかりに。
あなたのお母上のお気持ちが分からないわけでは無いんですよ?
でも、だからといって、わたしたちを引き離すだなんて。
あんまりです。
わたしたちのほうが先だったのに。
あの女の娘だからって、
他人から、あんな目で見られたのは久々で。
ねえ、どうして来てくれないの?
お母上の紹介で夫婦になった、あの素朴なのがあなたの好みなの?
どうしてあなたの家では笑いが絶えないの?
どうして?
今もずっと、考えているんです。
段々と大きくなるこの腹の中身が、あなたとの子ならって。
それなら、そばにあなたがいなくても、
わたしは笑えるんです。
早く楽になってしまいたい。
そうして、空からあなたを捕まえて、溶け合ってしまいたい。
あなたもきっと、おんなじ気持ちでしょう?
空は、海は、世界は、こんなにも広いのに
屋上で手を広げて、きみに笑いかけた
何をしても笑わなくなったきみは、
いつもと違ってカラッとした顔をしてた
ふと、きみは立ちあがってフェンスに手をかける
バカで、なにも考えてないわたしは
もう大丈夫かもって、また一緒に色んなとこに行けるって本気で思ってた
けたたましい電話の呼び鈴、母のおおきな声
起きるにはまだ早い時間で、
モゾモゾと布団にもぐりこむと、
バタバタと階段を駆け上がって、ドアを勢いよく開けた母
暢気なわたしを起こして、車に乗せる
着いたのは、きみの家で
家の前で、きみのお母さんは右往左往していた
きみは昨日別れたあと、どこに行ってしまったの?
帰ってこないって、お母さん、心配してたよ
きみから1件のメッセージ
藁にも縋る思いで開いて、
謝りたくなった
わたしはなんにも分かってなかった、分かってあげられなかった
ちっぽけなわけないのに
わたしの尺度で、きみの気持ちを測って
決めつけて
手が届かなくなってやっと気付くなんて、
本当にわたしは、どうしようもないバカなんだ
キッカケは下らないことだった
私が気に食わなかったんでしょ
無視
暴言
暴力
どんどんエスカレートしていって
曇った顔をしてた奴らも
あんたと同じようにニタニタ笑って
何度飛び降りようと思ったか
何度あんたの首を折りたいと思ったか
知らなかったよね
私も笑ってたから
イジりの延長だと思って
自分のほうが上だって
誤解させちゃった
これが最後
あんたと私にはお似合いだよね
大丈夫
一緒に地獄に堕ちてやるからさ
だからみっともなく泣くなよ
気持ち悪い
あなたはずっと、私にとって雲の上の存在で
憧れて、あなたのようになれたらとどれほど思ったことでしょう
手を伸ばして、あなたに触れたくて
でもきっと、あなたに触れることは私なんかにできない
そう思いつつも、あのとき見たあなたが焼きついて離れなくて
ここまで生きてきました
あなたは大袈裟だと言うでしょうが
私は、あなたの枷になりたかった
あなたの生きる意味になりたかった
あのとき、私の思いを伝えられていたら
あなたはもっと、歳を重ねることができたでしょうか
未だ、天で待ってくださっているのなら
改めて、面と向かってあなたを呼びたいのです