ガラスコップに注いだ水は、
透き通っているように見える。
でもその水をすくい上げた池は、
とても底なんて見えない。
あなたから見て、私はどう見える?
~透明な水~
僕なんかよりも、
君を幸せにできる人間なんてきっとごまんといる。
それでも君は「あなたがいい」と微笑む。
絶対に出会うことのない理想。
君の理想になりたかった。
~理想のあなた~
水族館で豆皿を買った。
ペンギンのイラストがシンプルで可愛いかったからだ。
こういう柄物はよほど気に入らないと手に取ることはない。
少しウキウキしながら帰路へ進んだ。
お刺身にしてわさび醤油で堪能するか。
ナゲットを揚げてケチャップで洒落込むか。
ゆで卵にマヨネーズ……塩も捨てがたい。
作戦会議をしながら帰宅。
キッチンで意気揚々と箱を開けて豆皿を取り出した。
うむ、よい。
それでは宴の準備、と豆皿を置こうとした時だった。
するりと豆皿は手を滑り、流しの方へ向かって空に出た。
動物番組で見たことがある。
ペンギンはトボガンという、体力温存のために脂肪の厚い腹を使って氷の地面を滑る移動方法を用いる。可愛く見えるが、厳しい自然界で生き残るための生存戦略なのだと。
歪んだ半月状の陶器を二つ拾い、凸凹をはめる。
すると、十数秒前の姿を取り戻すことができた。
ただし器としての機能はもうない。
この鳥類は勇敢にも人間に抗い、見事意表を突いた。
しかし、たった一つ大事なことを忘れていた。
ペンギンは空を飛べないのだ。
~突然の別れ~
好きなものを好きでいるのは難しい。
だから皆が思い思いの手段で好きを語る。
そんな当たり前ができなかった私は、いつしか心に蓋をした。
見て見ぬふりをしつづけて、
何かを好きになる感覚もなくなって数年が経ったある日、
彼女に出会った。
彼女は自分が優れた人間ではないことを知っていた。
それでも誰よりも強くあろうと自分を信じ続けた。
健気で 、気高く、可愛らしい。
その姿に、もう一度蓋を開ける勇気をもらったのだ。
もう二度と、
私は好きを諦めない。
~恋物語~
てっぺんを超えて、ゴールデンタイムが始まる。
金曜日の夜が来た!
早く寝るべきなのは百も承知だが、
その分早く起きられるかといえばNOである。
であれば、この静寂を享受しないのはもったいない。
特に何をするわけでもない。
外には音も光もない、その気配を味わうだけ。
余裕があれば外に足を運んでもいい。
夜はすべてを受け入れてくれる。
後悔なんて起きてからすればいい。
ずっと真夜中ならそんな必要もないのに。
私が最も穏やかになれる時間。
この時間が永遠に続くことを切に願う。
耳を澄ますとカラスが鳴いている。
遮光カーテンの隙間からは淡い陽が漏れだしている。
午前4時半。
夜は悲しいほどに短い。
~真夜中~