いつもありがとう

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9/8/2025, 5:21:36 PM

「みんなでカラオケ行かない?」

クラスの男子の誰かが言った。
私はその言葉を発した人間から目を逸らす。

賛同者が増えていく。
私は聞こえないフリをして身支度をする。

「○○はどうする?」

私だ。
なんと言って断ったんだろう。
行きたくなさそうなのを察して、
向こうから引いてくれたんだっけ?

とにかく、行かなくてよくなって本当によかった。
私は流行りの歌には詳しくないし、
盛り上がるのは苦手でノリも悪いからいない方がいい。

私はいない方がいい。
いない方が物事はうまくいく。

人が嫌いとかじゃない。
ただ、信じられないだけ。
物理的に離れるだけで、
殆どの人間関係は自然消滅するから。

私のような人間にとって、
「心を開く」という行為は一大イベントだ。

カラオケで心を開くだなんて大袈裟に感じるだろう。
私もそう思う。
でも家の中を土足で歩かれるような、
そんな気持ち悪さを拭うことができない。

わかってほしい。
私なんかいない方がいいって。

どうか「みんな」の中に、私を入れないで。

本当にごめん。


~仲間になれなくて~

9/5/2025, 7:17:23 PM

青が点滅した。
このまま歩けば横断歩道に着いた頃に赤になるだろう。

小走りならどうだ。
赤になる前には横断歩道に侵入できるだろう。
あまり疲れずに渡れそうだ。
だが本来は信号が点滅した時点で、
近い方に速やかに回避するのがルール。
半分以上渡れればいいが、
もし間に合わなければ、
信号待ちの車に冷ややかな目で見られるだろう。
それは好ましくない。
中途半端に急ぐのは得策とはいえない。

では走るか。
疲労はあるが間違いなく渡りきれるだろう。
大丈夫、走り方は覚えている。
いやしかし、必死すぎないだろうか。
そもそもギリギリ間に合うという理由だけで、
わざわざ体力を消耗させてどうする。
数ヶ月は走っていない足も悲鳴をあげるに違いない。

そうだ。
素直に赤信号を待てばいいではないか。
たかが信号一回、時間的には誤差の範囲。
今までもそうやり過ごしてきたのではなかったか。
君子危うきに近寄らず。
冒険はしない。
世間体も労力も無闇に天秤にかける必要はない。

だからダメなのだろうか。

いざと言う時だけ都合良く頑張ればいいなんて、
そんな虫のいい話があるわけがない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
しかし、怠惰な人間がいきなり虎穴に入ったところで返り討ちになるだけだ。

常在戦場。

常より己を磨かず、何を成し遂げられようか。
それに今のこの状況は、
ほんの少し歩を進めるだけで確実に成果を得られる。
人は小さな積み重ねでやがて大きく成長するのだ。

私はまだ何かを成すことを諦めたわけではない。

いけ、踏み出せ。
私はここから変わるんだ。
もうみすみすチャンスを逃す人生からは脱却だ。

ひと思いに地面を蹴って体を浮かせる。
その一歩は力強く大地を響かせ、
すぐさま力いっぱいに急ブレーキを踏んだ。

赤、か。


~信号~

8/26/2025, 2:01:11 AM

「もう一歩前へ」

貼り紙に書いてあった言葉

勇気をくれそうな、背中を押してくれる言葉

ここが男子トイレじゃなければなぁ


~もう一歩だけ、~

1/2/2025, 3:00:53 PM

昔はやっていたけれど、
今はやらなくなってしまったこととか。
少し手を付けてみたけれど、
すぐやらなくなってしまったこととか。

やりたいことはずっとたくさんあって、
そのどれもが、例えば――
時間がなかったり、
気分ではなかったり、
集中できなかったり。

時の流れに気を取られてばかりで、
ひたすら漁った目標達成のノウハウもままならなくて、
ただただ月日を空費してきた。

諦められないのは意志が固いからか、
それとも意固地なだけなのか、
グチャグチャと混ざり合って、
何年何月、
抗い続けて、
問い続けて、
もがいている。

諦めないでよかったと、
生きていてよかったと、
そう思える時が来るのだろうか。
来ないかもしれない。

でも、
強がりだと思うかもしれないけれど、
負け惜しみだと言われるかもしれないけれど、
今も苦しいことには変わりないけれど、
それでも私は噛み締めて生きていきたい。

私は幸せだ。


~今年の抱負~

1/2/2025, 6:53:42 AM

「あ、先輩。あけましておめでとうございます」
「おー、おめでとう。ところで疑問なんだが」
「明けて早々藪から棒すぎません?」
「今年の抱負はあるか?」
「そうですね、もっと様々な視点で物事が見られるようになりたいですね。先輩は今年の抱負はどうするんですか?」
「そうだな……僕は僕らしく過ごせればそれでいいな」
「先輩は自分大好きですしね」
「うるさい。じゃあ、去年の抱負は覚えてるか?」
「……うーん、覚えてないですね」
「だよな? 僕も覚えてない。どうせ忘れるのに抱負なんているのか?」
「はぁ」
「おい君、『この人また変ないちゃもん付けてるよ』って思っただろ!」
「べつに思ってませんよ、『今日も平和だなぁ』としか」
「僕を公園で遊ぶ子どもを見るような目で見るんじゃあない!」
「――逆に聞きますが、抱負を覚えている必要なんてあるんでしょうか?」
「目標なんだろ? 忘れたら意味ないだろ」
「まあ、目標としてはそうかもしれませんね」
「他にあるのか?」
「気付きませんか? 既に意味はあったんですよ」
「ヒントをくれ」
「ヒント早すぎません? ――先輩、今日はいい天気ですね」
「そうだな、元日から気分がいいな……ああ、もしかしてだが、“話題”か?」
「正解です。もし“抱負”という概念がなかったら、先輩とこうして話すこともなかったでしょうね」
「でも抱負なんて小中学校で発表させられた記憶しかないぞ」
「話す相手がいなければそうですね」
「どういう意味だ?」
「まあまあ。でも抱負にはもう一つ意味がありますよ」
「何だ?」
「抱負を考えられること自体が幸福ということです」
「急に胡散臭くなったな」
「大事なことですよ。抱負は言わば願掛けのようなものですからね。いいじゃあないですか、願掛け。タダでできる贅沢ですよ」
「君、そんなスピリチュアルなことを言う質だったか?」
「すみません、今考えました」
「だろうな。だがまあいい、そういう“抱負”だったしな」
「バレてしまいましたか」
「それに、否定するつもりもないしな」
「先輩らしいですね」
「まったく、何も出ないぞ」
「あ、そういえば言い忘れるところでした」
「……ああ」
「今年もよろしくお願いします」


~新年~

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