青が点滅した。
このまま歩けば横断歩道に着いた頃に赤になるだろう。
小走りならどうだ。
赤になる前には横断歩道に侵入できるだろう。
あまり疲れずに渡れそうだ。
だが本来は信号が点滅した時点で、
近い方に速やかに回避するのがルール。
半分以上渡れればいいが、
もし間に合わなければ、
信号待ちの車に冷ややかな目で見られるだろう。
それは好ましくない。
中途半端に急ぐのは得策とはいえない。
では走るか。
疲労はあるが間違いなく渡りきれるだろう。
大丈夫、走り方は覚えている。
いやしかし、必死すぎないだろうか。
そもそもギリギリ間に合うという理由だけで、
わざわざ体力を消耗させてどうする。
数ヶ月は走っていない足も悲鳴をあげるに違いない。
そうだ。
素直に赤信号を待てばいいではないか。
たかが信号一回、時間的には誤差の範囲。
今までもそうやり過ごしてきたのではなかったか。
君子危うきに近寄らず。
冒険はしない。
世間体も労力も無闇に天秤にかける必要はない。
だからダメなのだろうか。
いざと言う時だけ都合良く頑張ればいいなんて、
そんな虫のいい話があるわけがない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
しかし、怠惰な人間がいきなり虎穴に入ったところで返り討ちになるだけだ。
常在戦場。
常より己を磨かず、何を成し遂げられようか。
それに今のこの状況は、
ほんの少し歩を進めるだけで確実に成果を得られる。
人は小さな積み重ねでやがて大きく成長するのだ。
私はまだ何かを成すことを諦めたわけではない。
いけ、踏み出せ。
私はここから変わるんだ。
もうみすみすチャンスを逃す人生からは脱却だ。
ひと思いに地面を蹴って体を浮かせる。
その一歩は力強く大地を響かせ、
すぐさま力いっぱいに急ブレーキを踏んだ。
赤、か。
~信号~
9/5/2025, 7:17:23 PM