水族館で豆皿を買った。
ペンギンのイラストがシンプルで可愛いかったからだ。
こういう柄物はよほど気に入らないと手に取ることはない。
少しウキウキしながら帰路へ進んだ。
お刺身にしてわさび醤油で堪能するか。
ナゲットを揚げてケチャップで洒落込むか。
ゆで卵にマヨネーズ……塩も捨てがたい。
作戦会議をしながら帰宅。
キッチンで意気揚々と箱を開けて豆皿を取り出した。
うむ、よい。
それでは宴の準備、と豆皿を置こうとした時だった。
するりと豆皿は手を滑り、流しの方へ向かって空に出た。
動物番組で見たことがある。
ペンギンはトボガンという、体力温存のために脂肪の厚い腹を使って氷の地面を滑る移動方法を用いる。可愛く見えるが、厳しい自然界で生き残るための生存戦略なのだと。
歪んだ半月状の陶器を二つ拾い、凸凹をはめる。
すると、十数秒前の姿を取り戻すことができた。
ただし器としての機能はもうない。
この鳥類は勇敢にも人間に抗い、見事意表を突いた。
しかし、たった一つ大事なことを忘れていた。
ペンギンは空を飛べないのだ。
~突然の別れ~
5/19/2023, 12:48:56 PM