lapis lazuli

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10/23/2022, 1:12:03 PM

あたしは この日のために

ありとあらゆる ことをした

肋が浮くまで 働いたし

悪い仲間と 取引をした

財産は 全て売った

どうしても どうしても

見たかった

この青い空を


人類は 第三次世界大戦ってやつで

半分が死んだ

大型の核が何回も使われたから

放射能だらけで 地上にいられなくなった

シェルターに逃げ込んだ一部の人類と

数種類の動物だけが 生き残った

生き残ったはいいものの

偶然シェルターに入り込めた

私のような貧困層には 辛い日々が続いた

空は大気汚染で汚れて

清浄化するのに 何十年もかかった

元に戻った地上に出るには

うんとお金が必要だった

やっと見ることができた

青い空

でもあたしには分かる

あたしには もうあまり時間がない

お金持ちに

臓器も売ってしまったから

あたしは

眼球と脳だけになってしまったのだ

そして 培養液越しに 青い空を見ている

だんだん 景色が掠れてきた

連れてきてくれた人に 御礼を言いたいけど

それもできないから仕方がないか

青い空 ずっと続いている

もう涙腺もないのに 涙が出そうなの

全てを売った価値があった

この青い空

見れてよかった

あたしは もうない瞼を閉じた

なにもなくなった

戦争なんか なければよかった

さようなら…






10/22/2022, 1:23:35 PM

いえにかえると

おかあさんが てんぷらをあげていた

ぼくは ランドセルを置いて

手を洗ったあと

リビングのすいそうを見にいった

うちでは ちいさなおじさんを飼っている

かんさつ日記をつけるのが 

ぼくのしゅうかん

おじさんは 恥ずかしがりやだから

トイレにとじこもっていた

おじさんの部屋は 中がこちらから

丸ごと見えるようになっている

(アリの巣もこうやってかんさつするらしい)

トイレだけが 中が見えないようになっている

ぷらいべーとのもんだいだ 

とおとうさんが言っていたのをおもいだす

ぼくはすいそうを バンバンたたいて

でてこい といった

おかあさんが

こら やさしくしなさい

おじさんは せんさいなんだから

またしんじゃうわよ

まえのおじさんみたいに

と言った

おじさんがトイレから出てこないので

ゆーちゅーぶをみていたら

いつのまにかでてきて 

たんすのところでなにかしている

おかあさんにきいたところ

ころもがえ というらしい

おじさんは 服をそんなにもっていないのに

ぼくは 今日のかんさつ日記をつける

明日 せんせいにきいてみよう

おかあさんが てんぷらの衣だけを

小さいおさらにのせて

おじさんの部屋に置いた

今回は死なないように

ちゃんとそだてなくちゃいけない








10/22/2022, 12:50:15 AM

同僚と登山に来た

県内では割と有名な

そこまで高くない山だが

八分目位のところで

喉が渇いたので

同僚には先に行っててもらい 

少し休んでから行くことにした

休憩所 と書かれている表札の下に

小さいベンチがあったので

座って水筒から水を飲んだ

数分後ぐらいだったとおもう

…よう …よう

掠れた鳴き声のようなものがきこえる

あたりを見渡すが さっきまで犇いていた

登山者たちは 誰もいない

冷たい風が吹いた

…よう んだよう…

足元の1メートルぐらい下に

石があり そこから声がする

近づいて耳を当てた

…んだよう

せるんだよう…

…いつまで… 待たせるんだよう…

ぎょっとして 耳を離した

石は心無しか 顔のように見えた

いつまで 待たせるんだよう!!!

急に大声になり 

驚いた俺はそのまま後ろに転倒した

声が掠れるまで 石は叫んだ

やがてまた 聴こえなくなった




落ち着くために 煙草を吸った

震える手で 一本吸い終わると

心配そうな顔の同僚が戻ってきた

なんでもないんだ

と言いながら

こいつ 本当に俺の同僚だったかな

ふとそんな考えがあたまを掠めた

いつのまにか また増えていた

周りの登山者に混ざって

再び頂上を目指す

やけに皆 生気がない

そういえば俺は

いつ登山をはじめたっけ

いつから登ってるっけ

ずっと八合目だったりして

そんなことを考えながら

次の一歩を踏む





10/21/2022, 5:54:57 AM

金木犀の香りがすると

そろそろだな とおもう

僕が手塩にかけた 美しい子たち

あの奥さんに買われる

部屋に飾るんだって

部屋はサンルームになっていて

日当たりがとても良い

昼は暑すぎるくらい 陽が当たって

夜は冷えるから 毛布で包んであげて

その子たちが生きている間中

ドビュッシーの月の光を流してやるんだって

僕は少し心配になる

今まで買われて行った子たち

その最期は奥さん どうしたのかなって




僕は街外れの小さな花屋で働いている



最近 その奥さんの噂を聞いた

ベジタリアンなんだって

きちがいにもほどがある

奥さんにも 

あの子たちの声が聴こえるとおもっていたから

食べられる子たちの声が聴こえないのか

あんな断末魔

僕なら耐えられない

花屋の仕事だって

彼女たちの苦しい声に耐えながらやってるんだ

そろそろ金木犀の香りがしてきただろう

ほら あの奥さんが来た

はじまりはいつも

金木犀の香りがしてきたら なんだ

彼女たちのおわりが

いつも気になるんだよ



10/17/2022, 12:27:02 PM

昔付き合ってた女なんだけど

すげえ 綺麗でさ

そいつが眠ってから

そっと 観察するのが

俺の趣味?みたいなもんだった

髪の毛の先っぽから

額 眉頭 鼻 

唇 顎 喉 鎖骨

胸 臍 腿

脛 脹脛 爪先

って毎晩辿って

その綺麗さを堪能してから

俺も眠ってたわけ

あの晩も

同じように髪の先っぽからはじめた

爪先まで行ったとき

ふと気がついたらさ

右の親指の爪先が

黒く汚れてたわけ

そんなの初めてで興奮しちゃって

でさ

よおく見ると

ちいさい 文字だったわけ

…Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.…

ドイツ語ってやつ?

驚いてさ それを一生懸命読んでたら

その女

起き上がって

こっち見てたのよ

顔皺皺にして

にんまり笑ってたわけ

あの女

顔が別人みたいになってて

怖くて逃げ出して

それから一度も会ってない

俺、忘れたくても忘れられねぇわ

あのドイツ語も

長いのに忘れらんないのよ




せんぱいは のこったビールを

のみほして

おかわりを たのんだ

そのこえは すこし

ふるえていた

わたしは せんぱいの

はだしの あしのつめを みた










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