いつぶりだろう
外に出られたのは
今はふゆだろうか
木々の葉は落ち、枯れ葉ばかりだ
私はそのうえを裸足で歩く
もうだれも 追いかけてこない
もうだれも 私を苦しめることはできない
もうだれも 私をころすことはできない
私は自由
と同時に孤独だ
枯葉の上を みしみし歩く
空はどこまでも晴れている
こんな夢をみました
わたしは 闇に閉じ込められて
いまも地下室にいます
ここは 窓もなく
くらくて さむくて しめっています
もうそろそろ いしきもなくなります
はるになったら おこしてね
ママ むしさん うごかないよ
ふゆだからね とうみんっていって
はるまで ねむるのよ
ふーん つまんないなあ
こいつでさいごだったのに
はるになったら むりにでもおこして
またぼくと あそんでもらおう
偶然って本当にあるんだろうか
Nさんは、左手の皺を見つめながら言った
さあ…どうでしょう
僕はテキトーに相槌を打った
話し始めると長いんだ、このひと。
俺さ、小さい頃からなんだけど
俺に酷いことをしたヤツラを
思いっきり憎むとさ、
そいつらに不幸が起きるんだ。
この前もさ…
僕はテキトーに相槌を打ちながら
文字の羅列を
パソコンに打ち込んでいた
なあ、聞いてる!?
気づいたら
Nさんがこちらを見ている
お前さあ、調子乗ってるよね
俺より偉くなるんだって?
偉そうにしてんじゃねぇぞ
先週決まったことだけれど
作業を淡々とこなす僕は
無駄口ばかりのNさんより
昇進することになってしまったのだ
Nさんの表情は
逆光で見えなかった
その日
家に帰ると
大事に飼っていたインコが死んでいた
あのとき
Nさんは
どんな表情をしていたんだろう
きのう
彼女の家に泊まりに行った
風呂上がりに
脱衣所の洗面台にある
鏡を見ていた
彼女の家の洗面台は
鏡がドアになっていて
開くと収納になっているものだ
彼女はそこに
化粧水やら 美容液やら
クリーム 口紅 綿棒
爪切り 眼鏡
楽しかったコンサートのチケットまで
しまっておくひとなのだ
ふと 思い立ち
久しぶりに開けてみた
目の前に見慣れない
瓶が並んでいる
僕はコンタクトレンズを外すと
視力が0.1以下なので
そのうちのひとつを手に取って
目を凝らしてみた
Kくん 12月1日 午前2時
ご丁寧にラベルが貼ってある
瓶の中にあるのはなんだか
「…指…??」
そのとき 玄関のベルが鳴る
彼女がパタパタと駆けていく音がする
警察です
という男の声が
洗面所まで聞こえてきた
もうすぐクリスマスなのに
僕はまた
変な女と付き合ってたみたいだ
もし
もういちど
あのひとに あえたら
とりとめもない
はなしをしよう
なんでもいい
さむいね とか
さいきん どう? とか
あいさつだけでもいい
ひとことでもいい
てや
ほほに
ふれられなくてもいい
さいあく
はなせなくてもいい
みてるだけでいい
ただ
いきてることが
わかるだけでもいい
それがかなわないことも
しっている
もう このよにいないことも
しっている
けれど
もしあえたら
とりとめもない
はなしをしよう
きみがいないまま
ことしもそろそろ
おわりそうだよ
真っ白な床
真っ白な壁
高い天井
横幅は広くないが
たてにどこまでも続いている
家具はほぼないのだけれど
歩いていると
ときどき
白いバスタブとか
ベンチとか
デスクライトがあって
自由に使うことができる
でもけっして
食べたり飲んだり
排泄したり
そういう所謂
現実的な行動はできない
私の頭の中には
この白い部屋が
昔からある
いじめられていたとき
しごとがうまくいかないとき
もう生きていたくないとおもったとき
この白い部屋によく入った
僕にもあるよ そういう部屋
初めて打ち明けたとき
その子はそう言ってくれた
でも僕のは 青なんだ
彼はすこし微笑んで横を向いた
なんて寂しい横顔なんだろう
と思った
手を繋いだ私たちの頭上では
青と白の電飾が
いつまでも
チカチカと光っていた