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1/28/2024, 12:55:46 PM

 本だって、洋服だって。今はなんでもインターネットの通販で買える。
 それなのに、わざわざ街に出掛ける理由ってあるんだろうか。

「そんなの、あるに決まってんじゃん!」

 私の疑問に、親友が食い気味に答えた。

「もちろん『楽しい』から!」

「……自信満々にうっすいこと言うね」

 冷めた目をする私に、親友は不満そうに口を尖らせた。

「えー、薄いかな? 真理じゃない?」

「今の時代、街に出掛けることに意味なんて無いと思うけど」

 私がそう言うと、親友はなぜかにやっと笑った。

「……そんなこと言うけどさ、いつも誘ったら来てくれるもんね?」

「……だって、『楽しい』もの」

 街は今日も賑わっている。



『街へ』

1/27/2024, 5:28:20 PM

「だってね、最初は優しかったんだよぅ……。お姫様みたいにエスコートしてくれて、素敵なレストランに連れて行ってくれて、プレゼントだって……」

 夜のバーにて、先輩と俺とふたりきり。
 先輩は、泣きすぎて鼻声になっていた。別れたばかりの元彼にもらったネックレスを、未練がましく見つめている。

「でもね。もうわたしはいらないんだってさ。ひどいよねぇ」

「……ひどいっすね」

 正直、付き合い始めたと聞いた時から、「なんであんな奴と」とは思っていた。同性の間では、女癖の悪さで有名な男だったからだ。

 苛々した。
 そんな男に、そんな見せかけだけの優しさに引っかかる、先輩に。

「……でも、先輩も先輩で悪いですよ。男を見る目をもっと磨いた方がいい」

 言ってしまってから、後悔した。

「君は、いつも厳しいなぁ」

 見ると先輩は困ったような、寂しそうな顔をしていた。

 ごめんなさい。あなたに、そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
 でもきっと。もう手遅れなのだ。

 俺は、手元にあったグラスの酒を飲み干した。

「そうですよ。俺は厳しいんです」



『優しさ』

1/25/2024, 2:54:02 PM

「大丈夫。心配いらないわ」

 さすが高名な霊能者は、言葉にまでパワーがあるものだ。さっきまで私を苛んでいた不安は、彼女のひとことを聞いただけで、すっと溶けるように消えていった。

 私の向かいには、着物姿のふっくらとした中年女性が座っている。彼女は柔和にほほえんで、言葉を続けた。

「『一週間くらい前から何かに取り憑かれているみたいだ』とおっしゃっていたけれど……これは、あなたに悪さをするものではありません」

「と、言いますと……」

「あなたを護っているのよ。彼女……そう、女性なのだけれど……こう言っているわ。『遠く離れた彼岸からも、あなたをずっとずっと見ているよ』って。よかったわね」

 そんな風に、私のことを気にかけてくれる人がいたなんて。思いがけないことに、心が温かくなった。

「それは、いったい誰なんでしょうか?」

 霊能者は、優しい声で答えた。

「あなたの、『お母さん』だと言っているわ」

 鳥肌が立った。

「あの……母はまだ生きていて、今も一緒に住んでますが」



『安心と不安』

1/24/2024, 2:44:51 AM

 たまには自分の話を。

『こんな夢を見た』

 何年経っても、いつまでも鮮明に覚えている夢があります。

 私は、マンションの外階段をひとり駆け降りていました。自宅ではない、見ず知らずのマンションです。

 経験がある方はわかると思うんですが、ああいう階段、急いで降りるとすごく目が回るんですよね。
 でも、後ろから恐ろしい「何か」が迫ってきている(気がする)ので、ゆっくりしているわけにはいかない。

 仕方がないのでぐるぐるぐるぐる、目を回しながらも駆け降ります。

 夢にありがちな話ですが、いつまでも一階にたどり着くことはありません。

 とうとう階段を二段飛ばし、三段飛ばしで転げるように降りはじめ……。

 ……スピードが出過ぎたんでしょうか。気がつくと私は階段から放り出されて、どこからか取り出したパラシュートのようなものを使って、ふわふわと空中を落下していました。なんだそりゃ。おしまい。


 余談。
 ずっとユーザー名を変えようと思っているのですが、よい名前が思いつきません。そのうち変えます。

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

1/22/2024, 2:02:51 PM

「助手くん! 助手く〜ん!」

「なんですか、知性と美貌を兼ね備えた女神のような博士」

「えっなにそのほめごろし。怖いんだけど……。
 や、そうじゃなくて。助手くん聞いてくれ。ついにタイムマシーンが完成したんだ!!」

「……おめでとうございます。
 っても半分くらい僕が手伝いましたけどね」

「そこはまあそれとして。
 私はこれからさっそく、過去に戻ってこようと思う」

「……いつの時代に戻るんですか?」

「私が女子中学生だった頃だよ」

「戻ってどうするんです?」

「……私が中学時代にいじめられてたことは話したよね。その頃に戻って、私をいじめた奴らを返り討ちにしてやるのさ」

「ああ、その目的を果たすために、博士は研究者になったんでしたっけ」

「そうだとも。やっと長年の夢が叶えられそうで嬉しいよ」

「では博士、目的を達成した後は、どうするんですか?」

「えっ」

「そのあとの博士の人生、研究の道に進む必要がなくなりますよね?」

「……それはまあ、そうだね」

「この研究所にも、入らない」

「……かも」

「僕とも会うことはありませんね」

「……」

「さみしいです、僕」

「…………。

 ……とりあえず、今日はやめとこっかな、疲れたし」

「コーヒーでもいれてきましょうか?」

「うん、よろしく頼むよ」



「……あっぶねー、僕が手伝ったところの設計図の計算式、間違ってたのさっき見つけててよかった……。起動したらどうなるか……。
 めちゃくちゃ言いづらくてごまかしたけど、やっぱ言わないとだめだよなぁ……」



『タイムマシーン』

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