「だってね、最初は優しかったんだよぅ……。お姫様みたいにエスコートしてくれて、素敵なレストランに連れて行ってくれて、プレゼントだって……」
夜のバーにて、先輩と俺とふたりきり。
先輩は、泣きすぎて鼻声になっていた。別れたばかりの元彼にもらったネックレスを、未練がましく見つめている。
「でもね。もうわたしはいらないんだってさ。ひどいよねぇ」
「……ひどいっすね」
正直、付き合い始めたと聞いた時から、「なんであんな奴と」とは思っていた。同性の間では、女癖の悪さで有名な男だったからだ。
苛々した。
そんな男に、そんな見せかけだけの優しさに引っかかる、先輩に。
「……でも、先輩も先輩で悪いですよ。男を見る目をもっと磨いた方がいい」
言ってしまってから、後悔した。
「君は、いつも厳しいなぁ」
見ると先輩は困ったような、寂しそうな顔をしていた。
ごめんなさい。あなたに、そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
でもきっと。もう手遅れなのだ。
俺は、手元にあったグラスの酒を飲み干した。
「そうですよ。俺は厳しいんです」
『優しさ』
1/27/2024, 5:28:20 PM